ペナントレース終盤のプロ野球は順位争いとは別に投、打の個人記録に注目が集まっている。一つには文句なしの称賛が送られるが、もう一つはため息交じりのものである。

前者は楽天・田中将大投手の連勝記録で、後者はヤクルト・バレンティンのシーズン最多本塁打記録への挑戦である。ため息交じりの理由はお分かりだろう。いわゆる飛ぶボールによる量産と思われるからだ。

7月に「ボール問題」が発覚し、第三者委員会による調査結果が9月19日に予定されているオーナー会議に報告される。プロ野球は使用球をミズノ1社に独占させているため、問題発覚後に他のボールメーカーに代替させることは数量確保から無理とも言えるが、それなら選手、ファンに「継続使用」を説明するべきだった。

バレンティンは2日現在、52本塁打と驚異的なペースで打っており、王貞治氏らが持つ55本のプロ野球最多記録を大幅に塗り替える可能性が出てきているのだ。

来日3年目のバレンティンは2011、12年とも31本で本塁打王になった実力者だが、日本野球機構(NPB)関係者はさぞ頭を抱えていることだろう。その話は次の機会に詳しく触れるとして、今回は久々に興奮させてくれた田中投手について書いてみたい。

▽久々の「20勝投手」に王手

田中投手は8月30日のソフトバンク戦に先発し7回3失点で、球界初の開幕から無傷の19連勝を達成した。昨年からだと23連勝となり連勝記録を更新中。1シーズンだけに限れば、故稲尾和久投手(西鉄)の20連勝(1957年)に迫っている。

このころは西鉄の黄金時代で、稲尾投手は35勝6敗の成績を挙げ、翌58年も33勝10敗で2年連続MVPに選ばれた。投手を取り巻く環境も様変わりし、今では30勝などという数字は想像すらできないものとなっているが、2年前の19勝が最多の田中投手にとって「20勝投手」の勲章まであと一歩。

パ・リーグでは2008年の楽天・岩隈久志投手(現マリナーズ)の21勝(セは03年の阪神・井川慶投手=現オリックス=の20勝)以来となる。

▽2人目の勝率10割投手なるか

楽天は念願のリーグ優勝に向かって走っている。田中投手以外では苦しい試合が続いておりチームは胸突き八丁にある。田中投手もこれまでの疲れに加え、勝ち負けを争う中で無理な登板もあるだろうし、黒星が付く試合も近いような気もする。

過去の最高勝率投手は81年の日本ハム・間柴茂有投手(15勝0敗)で、2リーグになって以降ではただ一人の勝率10割投手である。

「マー君」の愛称で人気のある田中投手は、今や日本球界を代表する右腕となった。プロ入り7年目の今季、積み重ねた勝利は94勝35敗で、西武・松坂大輔投手(現メッツ)の91勝、日本ハム・ダルビッシュ投手(現レンジャーズ)の93勝を超えた。

高校出投手の7年目時点で比較すると、阪神・江夏豊135勝、近鉄・鈴木啓示134勝、巨人・堀内恒夫117勝と上には上があるが、田中投手は35敗しかしておらず、高い勝率は自慢できるだろう。

▽メジャーの熱い視線

どうしてもダルビッシュ投手とダブって見えてしまう。ダルビッシュ投手は「日本で対戦してみたい打者はもういない」と言い残してメジャーへ行った。

田中投手は今季、スプリットボールに磨きがかかり投球術を確立しつつある。昨年オフの契約更改時、球団に「将来はメジャーへ行きたい」と明言していることを考え合わせると、日本シリーズの大舞台を経験した場合、日本での目標を持ちにくくなりそうな気がする。

現在、日米両球界でポスティング(入札)制度の見直しをしているそうだが、早ければ今オフにもメジャー行きとなるかもしれない。楽天が引き留める方策を持っているとは考えにくいだけに、また日本球界からスター選手がいなくなる可能性が高い。

▽アジャストできるかどうか

マー君がもしメジャーに行った場合、活躍できるかどうかは「適応能力」にあると思う。メジャー経験のある長谷川滋利氏がメジャーでの成功のポイントとして挙げたのが「アジャストできるかどうか」だった。

精神面はともかく、技術面で思い当たるのは今年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)である。各投手が一番気を使ったのが米国製使用球で「半端じゃなく滑る、縫い目が低い」と、対応に苦慮する姿が印象的だった。これに適応できないとメジャーではしんどいし、無理をすると肘を痛めたりする。

日本からメジャー入りした投手が肘の手術を受けるケースが多いのも、そこに原因があるのかしれない。

そうしたことは田中投手自身が一番分かっているに違いない。ただ、そうしたこと以上に「挑戦してみたい」と思わせるのがメジャーなのかもしれない。

田坂貢二【たさか・こうじ】のプロフィル

1945年広島生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆