夏の甲子園大会もいよいよ中盤に差しかかってきた。高校球児たちの真剣なプレーは多くの共感を呼び、絶大な人気の源となっている。これが光の部分だとすれば、影はやはり後を絶たない「部内暴力」だろう。今春、春夏通算7度の甲子園優勝を誇る大阪のPL学園高で部員による暴力事件が発覚して、同校は2月から6カ月の対外試合が禁止され、夏の大阪大会に出られなかった。監督による暴力もさることながら、こうした上級生による下級生への「指導」に名を借りた密室での暴力は、若者の過ちだけでは済まされない悲惨ささえ感じさせる。

甲子園大会の開会式で文部科学大臣はあいさつ(代読)で「いじめ、暴力を高校野球が先頭に立って撲滅してほしい」と訴えた。日本高校野球連盟は国民が注視する開会式の場で率先して「暴力追放」を宣言すべきではなかろうか。事あるごとに「教育」を持ち出すのだが、今、日本の教育界で最大の問題になっているこの問題にもっとかかわるべきだと考えるが、どうだろう。どのアマチュアスポーツの目的も「勝つこと」であり、極端な勝利至上主義が「高校野球のプロ化」を助長し、その結果、暴力をも生みだしているように思う。今回紹介する大学の準硬式野球はその対極にある。「野球がやりたくて集まっている連中ばかりだから暴力事件など起きようがない」とも聞く。その頂点を争う「第65回全日本大学準硬式野球選手権大会」が23日から東京で開幕する。

▽野球人気を支え続ける軟式・準硬式

日本の野球で一大発明といえば「軟球」ではないだろうか。軟式ボールは「硬球」の代用品として天然ゴムを材料として大正時代につくられ、手軽で危険性がないことから戦後に広く普及した。ちょっとした空き地があれば手軽に楽しめ「草野球」の代名詞とともに、日本の野球人気拡大に多大の貢献をした。

軟球から派生したのが準硬式で、硬式に限りなく近い「本格野球」のために開発された。表面こそゴムだが、中空の軟球と違って中は硬球と全く同じつくりになっている。われわれ世代は「トップボール」と呼んで楽しんだものだ。準硬式を使うのが今では東京の社会人や大阪の中学生の一部の大会に限られているのは、硬球と同じようにしっかりしたグラウンドが必要だからで、規模が大きい大学で広まった理由だろう。

▽選手継続と将来設計

全日本大学準硬式野球連盟に加盟しているのは約280校(ちなみに大学軟式は約220校)ある。大学によって違うだろうが、部員構成は硬式と軟式経験者が入り交じっている。硬式野球部のように高いレベルでの“野球漬け"の学生生活は送れないが「本格的な野球は続けたい」選手が多いのである。

日本大学準硬式野球部でコーチを務める杉山智広氏もそんな一人だった。同氏は東京・日大三高野球部が2001年夏の甲子園大会で優勝した時の主将。2年前の夏、日大三高は吉永健太郎投手を中心に2度目の全国制覇を成し遂げたが、01年チームはそれ以上に強かったといわれており、4選手がプロから指名された。杉山氏は控え捕手だったが、私は小倉全由監督から「早くから杉山を主将に決めていた」と聞いていた。リーダーシップがあり選手からも信頼を受けていた。その杉山氏が選んだのが準硬式野球で、「野球を続けたい。でも将来のことも考えたい」が理由だった。現在、日大職員のかたわら指導している。今夏の甲子園大会で優勝候補とされた日大三高は13日、初戦の2回戦で日大山形高に敗退しただけに、元主将としては悔しい限りだったろう。

▽まさに文武両道

準硬式野球部には甲子園出場組もいる。特に、ここ5年で4度も全日本大学選手権を制した中央大学には多い。だが「野球と勉強の両立」を目指す選手がほとんどなのだ。早稲田大準硬式野球部の女子マネジャーは「たまに甲子園に出た選手もいますが、進学校といわれる高校から入ってくる選手が多い。練習や運営も自分たちですべてやる。楽しんでやっています」と話してくれた。なにか、スポーツの原点を見る思いだ。

硬式と比べマイナーと見られるのは、目的からして仕方ない。準硬式から直接プロ入りする選手も出ているが、軟式から直接プロ入りした東映(現日本ハム)の土橋正幸(通算162勝)、広島の大野豊(148勝)両投手のような大物選手は出ていない。ただ、多くのプロ選手が小・中学時代は硬式ではなく、軟式か準硬式をやっていたものだ。12日に終わった第33回全日本学童軟式野球大会は47都道府県の代表が争う小学生の全国大会だが、予選には約1万5000チームが参加した。野球のすそ野は実に広い。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆