阪神は開幕から独走態勢に入ろうとする巨人のしっぽをつかんで離さなかった。3位以下を大きく引き離す「2強4弱」に持ち込み、巨人を抑えて首位に立ったこともあった。ところが、後半戦に突入した途端に赤信号が点滅し始めた。7月26日からのDeNA戦で3タテを食らい、首位巨人との差はあっという間に5・5ゲームに開いた。同一カードの3連敗は今季初で、連日4万5000人を超える満員の甲子園球場で、なんとも惨めな姿をさらしてしまった。正念場である。8月2日からの巨人3連戦(東京ドーム)は再浮上への絶好の機会だが、3連勝か2勝1敗でないと選手の士気に影響するだろう。

▽交流戦で勝ち越し好調維持

阪神はオープン戦の好調をそのままペナントレースに持ち込み、オールスター戦までの前半戦は交流戦を12勝11敗1分けで乗り切ったこともあり、46勝33敗2分けの好成績だった。チーム本塁打数は巨人の80本に対し48本とリーグ最少ながら、防御率が巨人(2・84)に次ぐ3・00といい。メッセンジャーと能見篤史を軸に岩田稔、榎田大樹、スタンリッジの各投手、そして新人・藤浪晋太郎投手も先発ローテーション入りするなど、投手力が好成績を支えてきた。ただ、不安視されていた藤川球児投手が大リーグに去った救援陣の手薄さは弱点として出ている。

▽得点力のなさが投手を直撃

DeNA3連戦は1―5、1―4、0―10で敗れ、その前のヤクルト戦でも1―11の敗戦があった。夏場を迎え投手陣にじわりと疲れが襲って来ているようだ。「飛ぶボール」の恩恵を受けにくい広い甲子園では投手力を中心にした戦いが勝敗を分けるだけに、阪神は踏ん張りどころにいる。クライマックスシリーズ(CS)に出場できる2位でもいい、と思った途端にずるずる行く危険はある。それに過去3度(3、2、2位)のCSでは1勝6敗で、一度も勝ち上がっていない。

昨年5位に終わった原因は攻撃力の弱さだった。0点が23試合、1点が31試合あり、1試合の平均得点2・85は12球団で最低だった。「いかに少ない安打で得点して勝つ野球」を和田豊監督は目指さざるを得なかった。頼りにしたメジャー帰りの“助っ人"の福留孝介選手は左膝を手術し、西岡剛選手も左膝の故障などで戦列を離れることが多くなった。それをカバーする選手層の薄さが巨人との決定的な差になろうとしているだけに、ここは鳥谷敬、新井貴浩、マートンの主軸がそれこそ死に物狂いでやるしかない。もちろん、2年目和田監督の手腕が問われている。

▽勝ち切れない弱さ

阪神は2リーグになってから5度しか優勝していない。1962年と64年は藤本定義監督で、85年は吉田義男監督で勝ち唯一の日本一に輝いた。2003年は星野仙一監督、05年は岡田彰布監督で優勝した。それからすでに7年が過ぎたが、優勝のチャンスはあった。特に岡田監督の08年は巨人に一時は13ゲーム差をつける独走から逆転された。真弓明信監督の10年は巨人、中日と争い優勝へのマジックナンバーを点灯させながら2位に甘んじた。勝ち切れない弱さの原因を求めるとすれば、しっかり戦力整備をやれない球団フロントだろう。巨人に迫る人気を誇っていて観客動員数は常時200万人を超える。それにプロ野球選手会が毎年発表する選手平均年俸では阪神が5546万円で11年まで3年連続トップなのだ。しかし、どうも巨人のように「常勝球団を作るんだ」という信念や気概が感じられないのである。

▽野村、星野両氏の功績

私が阪神を担当したのは40年前のことだ。当時の監督は金田正泰氏と吉田氏で、監督と選手、選手同士がいがみ合い、それにスポーツマスコミが絡んで内紛を繰り返すまさに「暗黒時代」で、人気球団のマイナス面ばかりが出ていた。吉田氏のように3度も監督を務めるなど監督選びに苦労し、正直、野球どころではなかった年もあっただろう。99年に野村克也氏、2002年に星野氏を監督に据えたあたりから変わってきた。もちろんそれまでもOBではない監督は沢山いたが、野村、星野両氏の最大の功績はオーナーなど親会社幹部に「チームづくりにはフロントの力が欠かせない」と、フロント人材の育成を認識させたことだろう。

▽球界への発言力を強めよ

そうした仕掛けを担った野崎勝義元球団社長は「本当は強い阪神タイガース」(ちくま新書刊)の中で苦労話を明かしている。中でも2004年に起きた近鉄球団の売却に端を発した「球界再編」騒動では、「一リーグ制」に走ろうとする巨人に対し、セ他球団に根回して二リーグ制維持やセパ交流戦導入を主張した。面白いのは、阪神の親会社幹部から「読売とはケンカするな」と言われたくだり。押しも押されもしない伝統ある人気球団でありながら、球界への発言力を発揮していない体質がある。

加藤良三コミッショナー主導とされる来季の開幕戦、巨人―阪神の米国開催が中止され、阪神・坂井信行オーナーは「うちは甲子園で巨人戦をやったほうが儲かるから」と話した。本音ではないと思いたい。阪神は独自の米国調査から開催に否定的だったとも言われているが、万が一、米国開催が意義あるものなら赤字覚悟でやればいいのであって、大阪商人丸出しの「儲からない」発言は、大阪育ちの私にも恥ずかしいものだった。

人気面で心配されるプロ野球で阪神が暴走しがちな巨人をいさめ、10年前のような主導的役割を発揮できるかが問われているように思う。一見、チームの勝ち負けと関係なさそうに思えるが、要は選手にとってプライドを持てる球団かどうか。ここぞの「底力」は、ファンの声援からだけ生まれるものではない。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。

ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆