すべてのスポーツに共通するのだろうが、試合にはその後の流れを左右する潮目の変わる瞬間というのがある。19日にブラジルのレシフェで行われたコンフェデレーションズカップ1次リーグで、イタリアに3―4で惜敗した日本代表にもその瞬間はあった。

それは後半5分、CB吉田麻也の中途半端なプレーだった。日本が試合の主導権を握って1点をリードしたまま迎えた後半。誰が考えてもイタリアが日本に圧力をかけてくることは疑いなかった。そして、ピッチに立つ日本代表のイレブンの誰もが、幼い頃からこのサッカーの格言を耳にたこができるくらい聞いていたはずだ。「入りの5分と、終わりの5分は注意しなさい」と。

4日前のブラジル戦でも前半3分と、ハーフタイムを挟んだ後半開始3分に失点している。だからこそ、細心の注意を払わなければならなかった。失点はFKをクリアした流れからだった。ピルロがヘディングでゴール左に送り込んだボール。吉田は余裕を持って処理できたはずだ。そこには当然、CKにはしたくないという心理が働いたことは理解できる。ただ自陣ゴール前でのDFはセーフティーファーストが大原則。しかし、吉田は躊躇した。そのすきを省エネサッカーに長けた“アズーリ"(青=イタリア代表の愛称)のアタッカーが見逃すはずはない。ゴールラインぎりぎりの狭いスペースで粘ったジャッケリーニが持ち込んで折り返したクロスからの失点。内田篤人のオウンゴールは致し方ないが、その2分後にバロテリのPKで3-2と勝ち越された一連の流れを見ると、あまりにももったいないプレーだった。

日本人としてCBでは、初めてハイレベルなプレミアリーグでプレーする吉田。ポテンシャルに疑いはないことなのだろうが、個人的に思うには吉田の性格はCB向きではないのかなと思う。初戦のブラジル戦で後半ロスタイムに3点目を許したときに追走をやめたあきらめのよさ。さらに危険エリアでも冒険を試みようとする、この日の失点に直結した安易なプレー。世界のトップに比べれば、GKも含めて決して強いとはいえない日本守備陣で、来年の大舞台を前に彼の意識改革は必要なのかもしれない。

「ユーロの準優勝チームと互角に渡り合ったし、立派だった」。ザッケローニ監督の試合後の感想は、過大な期待をかける日本のファンを除けば、この試合を見た世界共通の人々の思いだろう。少なくともワールドカップ優勝4回を誇る“カルチョ"の大国を相手に試合の運び方しだいでは勝つ可能性があったのだから。

そもそもこの日、スタンドの大半を埋めたブラジル人という国民は、日本でサッカーが盛んに行なわれているというのを認知している人は数少ない。かつてカズ(三浦知良)がブラジルでプレーしていたとき「日本人がサッカーをするの」と言われたほどの国だ。Jリーグができてブラジル人選手が数多く日本でプレーするようになって、その認識も変わったようだが、スタンドから送られるブラジル人の日本への応援は予想された。日本でいう判官びいき。サッカー後進地域のアジアの国が、あの守備の堅いイタリアを相手に3点を奪い、それ以上の決定的チャンスを作り出したのだから応援しないはずがない。

確かに日本にとって有利な条件はあった。メキシコ戦から中2日のイタリアに対し、日本は中3日。さらにレシフェの高温多湿の気象条件は、こと湿気に不慣れな欧州のチームには堪えたはずだ。それを差し引いても、この日の日本は結果はともかくとして、内容的には素晴らしい試合をした。この試合を見て楽しいと思わなかった人は、世界中でもほぼいないのではないか。

短期間で技術が向上するわけではない。チームを劇的に変えた最大の要因はハートだろう。欧州の金属製の甲冑を着た騎士を相手に、日本の鎧兜の武士たちは果敢に切りかかった。その先鋒となったのは岡崎慎司だったのではないか。前半32分のピルロからボールを奪い取った鬼気迫るディフェンス。さらにPKを奪ったプレーと、後半24分の3-3とする遠藤保仁のFKに対しニアサイドで合わせたヘディングシュート。気持が前面に出た岡崎のプレーは、日本が世界で戦うために不可欠な要素を身をもって示してくれた。

ただ思うのは、このメンバーたちが「頂点を狙う」と公言している以上、受け止めなければならないのは、善戦をしたとはいえ1点差で敗れたという事実だ。かつて日本がアジアでも勝てなかった時期に、韓国との1点差負けを引き分けに、さらに1点差で勝つまでにどれぐらいの努力を尽くしたことか。1点差というのは、たかが1点差だが、そこにある実力の開きは1ゴール以上の大きなものがあるのだ。

チームとしては約2週間前までアジア・モードでしかなかった日本代表。それがいきなりコンフェデレーションズカップで世界レベルに放り込まれた。初戦のブラジル戦こそどうなるかと思わせが、予想外の2試合目で見違えるようなレベルに切り替わった気がする。そのなかで敗れたとはいえ頼もしいのは、短期間に変化を見せた選手たちの気持ちの持ちようだ。「勝たないと意味がない」「負けたら意味がない」。世界の超一流を相手に、香川真司、岡崎の口から出たこの言葉が本心ならば、頼もしさを感じる。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている