記憶に間違いがなければ、2001、05年のコンフェデレーションズカップ、06年のワールドカップも含めて公式戦では4度目のブラジルとの対戦。過去3回の対戦は最終的に力の差を見せつけられることが多かったが、それなりに見せ場もあった。しかし、日本時間の6月16日早朝にブラジルの首都ブラジリアで行われたコンフェデレーションズカップの日本代表とブラジル代表の試合は見るべきものはなかった。「がっかり」というのが本音だ。

その順位の信ぴょう性には、個人的には非常に疑問があるが、今回のブラジルのFIFAランキングは史上最悪の22位。それに対して32位の日本の先発メンバーは9人が欧州組。普段から有名選手と顔を合わせるメンバーが多いこともあり、国際試合慣れという意味でももう少し競り合った好ゲームを期待していた。

ところが終わってみれば、0―3の完敗。ブラジルに乗り込む前に、選手たちが口ぐちに「勝負に行く」と威勢のよいセリフを吐いていた。それだけに、まったく勝負にさえならなかった試合を見たら、こちらが気恥かしくなってしまった。少なくとも内容的には昨年10月に0-4で敗れた試合の方が、はるかに見るべきものはあった。

ホームのブラジルが立ち上がりから、信じられないほどのペースで飛ばしてきたわけではない。逆に前半3分のネイマールのスーパーゴールで余裕が出たことで、ブラジルはあくまでも普通にサッカーをやった。その中で日本は「サッカー」をさせてもらえなかった。この両国を分ける差は、サッカーそのものに対する考え方の違いなのではないかと思う。

日本代表のサッカーが日本のサッカースタイルと呼べるのかは分からない。なぜなら日本代表のサッカーは、日本代表監督のスタイルだからだ。ザッケローニ監督が率いる日本代表のスタイルは一応攻撃型である。一方のブラジルは、誰が監督になろうが攻撃がすべてに優先する。それはブラジルの国民が、そのスタイルしか認めないからだ。

日本、ブラジルともに攻撃に主眼を置くということでは共通する。ところが攻撃に移るまでのプロセスに、この両国間には決定的な違いがあるのだ。実に日本人らしい奥ゆかしさ。人の物に手を出さないという美徳なのか、日本の中盤から前線にかけての守備というのは「ボールを奪い取る」というイメージからはほど遠い。可能性を感じるのは岡崎慎司と本田圭佑ぐらいで、他の選手はそれがボランチの長谷部誠や遠藤保仁であってもグループで間合いを詰めての相手のミス待ち。個人で相手からボールを狩り取るというプレーは期待薄だ。

一方のブラジルはどうかというと、ボールホルダーとの間合いを詰める前提に、ボールを「奪う」ことがある。日本ではまったく守備をしなかった、あのフッキでさえ体をぶつけて強引にでもマイボールとしようとする。なぜなら彼らの大好きな攻撃は、ボールを持たないと始まらないからだ。だから相手のボールを強引にでも奪い取る。すごく本能的ではあるが、サッカーの本質に沿っている。

今年の冬、日本のサッカーを視察に来ていたスペイン人のプロ・コーチが、こう話していた。「日本の選手はプレスをかけるとき、近づくだけでボールを奪いにいこうとしない。アタックに来ないと分かれば、相手は怖くない」。確かに育成年代の現場でも、プレスはボールを奪いにいくというよりも相手の攻撃を遅らせるディレイという感覚が強い。しかし、それはプレスにより心理的な圧迫でミスをする相手、日本代表に置き換えた場合、アジア勢には有効であっても、個々が日本人選手より圧倒的にうまいブラジルを相手には、まったく通用しないのだ。

日本がブラジルと対等に試合をできるようになるには、ボールを持つ相手に高いレベルで対応でき、相手から個の力でボールを奪い取れる選手が複数生まれてこなければ難しい。中盤のエリアでも今野泰幸のようにボール狩りができる存在が不可欠だろう。現在の欧州で活躍する日本選手のポジションを見ると興味深い。そのほとんどが攻撃またはサイドの選手なのだ。なぜかと考えた場合、そこに守備力の問題が関係しているのではないだろうか。サイドの選手というのはサイドバックも含め自らボールを持って仕掛けることが多い。ボールを持った選手は当然主導権を握れるわけで、そのほうがプレーは簡単だ。守備に関しても、センターバックのカバーがあるわけだから、一発で絶望的なピンチになるということもない。

一方、リアクションで相手の動きに合わせるボランチやセンターバックは、フィジカル的にもかなり高い能力が要求される。日本代表ではボランチを務めるキャプテンの長谷部や細貝萌も所属チームではサイドバックを務める。その理由はおそらく、相手から個の力でボールを奪い取る力が、ブンデスリーガのレベルでは足りないからだろう。

国際レベルにおける日本人選手のボールを奪う能力の低さ。それは、なにも身体的なことだけが要因ではないだろう。育成年代における教育が大きな問題なのだと思う。集団の和を重視するあまり、幼少期から1対1での勝負を軽んじることの弊害。それでは世界で戦えないことは、このブラジル戦でも明らかだった。

「攻めたいから相手からボールを奪う。知らないうちに守備がうまくなっていた」。日本には最高のお手本がいるではないか。澤穂希という世界の頂点に立ったフットボーラーが。攻めるためには、能動的にボールを奪い取る荒々しさが不可欠なのだ。地球上で最も愛される球技を、DNAに刻み込んでいるブラジル人。彼らのプレーを目の当たりにすると、サッカーなんてもっと本能に従ってもいいのではと思える。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている