アスリートの世界では、先天的な身体能力が重要視されるタイプと、経験が重要視されるタイプが存在する。プロ野球における投手は後者の典型だろう。決して剛速球だけが全てではなく、精密なコントロール、打者との駆け引き、投球技術が勝負を左右する。メジャーリーグで日本人プレーヤーたちの道を作った野茂英雄、現ヤンキースのエースである黒田博樹(38歳)、そして日本のプロ野球投手として最年長(47歳)、43歳の時に二桁勝利を飾った山本昌など、若い時から才能があることはもちろんだが、経験を積み重ねることで体力以上の円熟味を増した投手が数多く存在する。そして今回、カリフォルニアのロングビーチというストリートコースにおいて日本人初優勝を飾った佐藤琢磨(36歳)。本人によるレース内容の解説を聞き、ふとこうした日本人投手の姿がダブって見えた。

F3、F1時代から続くドライビングスタイルは勇猛果敢。「琢磨なら何かやってくれる」と観ているファンに期待と熱中を与えてきた。一方で、他のドライバーたちからは「アグレッシブ過ぎる」という評価もあった。マシンの差や路面状況から、佐藤自身は「行ける!」と判断したオーバーテイクでも、相手との駆け引きが充分でなく、過去に何度も接触というシーンがあったからだ。しかし、このレースでは、F1時代から持っていた状況判断能力に加え、経験からくる冷静沈着さを兼ね備えていた。

「2位のハンターレイをオーバーテイクする時、僕は(23周目に抜いた)彼に全てのオプションを与えたくなかった。ラインの内側にいること、ブレーキング時に横に並んでいること、ブレーキロックをしないこと。だからそれができた時は『オッシャー!』って。そして僕は、メインカテゴリーでのフィーリングが狂わなければ、リスクはあるけれど、スーパーフォーミュラなどの別カテゴリーマシンに乗ることが、オーバル、ロードコース、ストリートコースと、次々と変わるインディカーレースで、素早く順応するために役立つと信じていました。チームオーナーのAJフォイトも『レーシングドライバーとしてそれは当たり前だ』と僕の考えに同意してくれたことに感謝しています」

別カテゴリー挑戦で、新たな経験を手にした佐藤琢磨。今年中の2勝目、3勝目、そしてタイトル争いも視野に入ってきた。(モータージャーナリスト・田口浩次)