ウエットスタートで数々のドラマを生んだマレーシアGP。表彰台に立った3人のドライバーたちに笑顔はなかった。というのも、優勝したセバスチャン・フェテルは、チームオーダーを無視し、レース終盤にチームメートのマーク・ウェバーを抜いた。これにウェバーが激怒し、チームもフェテルを批判。そして3位になったルイス・ハミルトンも4位になったチームメートのニコ・ロズベルクの方が速かったが、チームオーダーで順位を得た。レース後のインタビューでハミルトンは「本当ならニコがこの場所にいるべきだった」と語った。つまり、表彰台の全員が、それぞれの立場でチームオーダーに翻弄されたレースだったからだ。

F1チームには長年チームオーダーというルールが存在する。無線がなかった時代には、“最後のピットアウト後の位置を守る"という具合にスタート前にルールを決めていた。無線導入後は、レース状況次第で指示を出していた。その後、テレビ中継にチーム無線が公開されるようになると、チームオーダーは「スポーツマンシップに反する行為ではないか?」という声が大きくなり、2003年から2010年シーズンの間は、“レース結果に影響を生むチームオーダー禁止"が明文化された。しかし、チームのルール破りが絶えず、罰金を支払ってもチームオーダーを優先させる状態ではルールの意味がないことや、チームからの強い要望もあって、2011年シーズンからはチームオーダーは合法になった。

レース後、フェテルは自らの非を認め、チーム全員に謝罪をした。チーム側も「すでにセバスチャンとマークは和解した」としている。しかし、パドックでは「もう以前の関係に戻ることはない」という声が多数派だ。なかでもフェラーリの伝説的ドライバーだったジル・ビルヌーブを父親に持つ、元ワールドチャンピオンのジャック・ビルヌーブは、レース中に父親が事故死した最大の原因が、チームメートのチームオーダー破りだったと言われているだけに、今回の行為を断罪する。「謝るのは簡単だ。愚かな行為だったね。今後、チームメートの助けが必要なとき、マークは手を差し伸べないだろう」。彼の行為を「レーシングドライバーとして当然だ」と擁護する声もあるが、今後のチャンピオンシップ争いがさらに混沌とすることだけは間違いないだろう。(モータージャーナリスト・田口浩次)