最軽量から最重量まで全階級に魅力的なタレントを揃える今日の英国で、スーパーウエルター級の代表的存在が28歳のブライアン・ローズだ。英国王座は3度の防衛に成功、さる4月20日の土曜の夜には、同国ブラックプールのリングで37歳の元WBA世界王者ジョアシム・アルシン(カナダ)を最終12回にストップし、いよいよ念願のWBO世界王座挑戦が現実味を帯びてきた。

さて、ここで見逃せないのが、アルシン戦の試合ポスターのいかにも英国的なひねりの効いたキャッチコピーだ。「ニューライフ・オブ・ブライアン」、イギリス人であれば、これが1979年に公開された英国のコメディ集団「モンティ・パイソン」監督・脚本による映画「ライフ・オブ・ブライアン」に引っ掛けていることは一目瞭然。何しろ、69年から74年にかけてBBC(英国放送協会)の深夜枠で放映されたモンティ・パイソンのコント番組で展開されたタブーの存在しない笑いの衝撃たるや凄まじく、これらのコントはビートルズの名曲に優るとも劣らないほどの緊密さで今なお国民的に諳んじられているほど。

4月初旬、訃報が報じられたマーガレット・サッチャー元首相が在任中の90年の保守党大会の演説において、有名コント「死んだオウム」のセリフや番組中の決まり文句「それではお話変わって」を引用し、大喝采を浴びたことも記憶に新しい。ところで、映画の主人公のブライアンは、イエス・キリストと同時代にエルサレムに生き、救世主と誤解され、磔刑に処せられた。ボクシングのブライアンもまた、絶望の淵を垣間見ている。

2009年10月、英国中部王座を獲得した試合で、10回TKOに倒した対戦相手ジェイソン・ラッシュトンが再起不能となった事実から罪の意識に苛まれ、闘えない精神状態のまま次の試合に臨み、いいところなく6回TKO負けで初の敗北。彼自身が再起不能に陥る寸前まで行った。だが、スポーツ心理学士のエマ・ジェームズ女史によるリハビリでよく立ち直り、今や英国では新世界王者の最有力候補。絶望の淵から見事、帰還したブライアン・ローズの新たな人生の物語は始まったばかりだ。(草野克己)