今さらではあるが「常識」というのは変わっていくものなのだと、あらためて実感した。2月13日にマドリードで行われたサッカーの欧州チャンピオンズリーグ(CL)で、レアル・マドリード(スペイン)とマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)の一戦を取材した。世界中が注目する強豪同士の激突という大舞台に、日本の香川真司がマンチェスターUの一員として先発した。試合後に「簡単にはうまくいかないし、まだまだと感じさせられた」と話しながら、込み上げる興奮を抑えられないように浮かべた笑みが強烈に印象に残った。

イングランドのリーグ戦では、クラブの方針でなかなか香川の生の談話を聞けないため、余計に印象的だったのかもしれない。ただ普段はどちらかというとクールなコメントを残す香川の感情をそこまで揺さぶった欧州CLという舞台、そしてレアル・マドリードの力を実感した。何より、世界中で知られている強豪の一員として日本選手が先発してプレーし、さらに上を目指そうと意欲をかき立てる姿を頼もしいと思った。

香川は3月17日で24歳になる、ロンドン五輪代表世代だ。欧州でプレーする選手には清武弘嗣(ニュルンベルク)や酒井高徳(シュツットガルト)ら同年代の選手も多い。その一人、金崎夢生(ニュルンベルク)は香川の笑みについて「気持ちはわかる。やっぱりうれしかったんじゃないですか。誰でもできる経験じゃないので」と共感を示した。彼らも香川の姿に大きな刺激を受け、それに続こうと決意を新たにしているのだろう。

個人的な話で恐縮だが、筆者は大分県出身の37歳である。選手としては下手の極みだったが、少年時代はサッカーに親しんだ。テレビのチャンネルが四つしかなかったため、年に数度のサッカー中継は常に「お宝映像」だった。中でも年に一度、「世界」のサッカーを目にできるトヨタ・カップがとにかく楽しみだった。プラティニやロマリオの活躍に心を踊らせていた私は「世界」のサッカーは外国選手のもの、と半ば当然のように思っていた。

それから多くの時間が過ぎた。欧州CLの優勝を争うクラブで日本選手が先発し、今後はそれが当たり前だと思うサッカー少年が育っていく。そうやってどんどん常識が書き換えられていくことが、日本サッカーの成長なのだろう。元サッカー少年がそんなことを考えた、マドリードの夜だった。

日高 賢一郎(ひだか・けんいちろう)1976年生まれ。2001年共同通信社入社。大阪運動部、広島支局、東京運動部を経て13年からロンドン支局。国内では主にプロ野球の広島、巨人などをカバー。 サッカーでは02年W杯でブラジル、11年女子W杯で日本といずれも優勝チームの取材を担当。昨年の五輪はなでしこの激闘を追った