いままで盲目的に信じていたセオリーが、もしかして違うのではないか。間違いとまではいかなくても、日本人が気づかないうちに世界の潮流は少しずつ変化していたのではないか。サッカーというゲームの最大の見せ場であるシュートの瞬間を切り取ると、近頃そう感じることが多々ある。

J1第2節の川崎対大分戦。90分の試合が終わったとき、まるで2試合を見終えた気分になった。前半はJ2から昇格したばかりの大分が健闘し、先制点を奪い1-0でリード。一転、後半に入ると川崎は猛反撃を繰り広げて45分間で13本のシュートを放ち、ワンサイドゲームの内容だった。

そこで思ったのは、一方的に試合を支配した川崎に対し「なんてシュートに策がないんだ」ということだった。確かに後半8分の大久保嘉人の右クロスを受けての反転した左足シュートは見事だった。ただ、それだけだ。その他の決定的なチャンスに放たれた多くのシュートは力まかせ。大分GK丹野研太が正確なポジションをとっていたこともあり、ほとんどのボールは守護神の正面を突くばかりだった。

試合後、川崎の風間八宏監督は「フィニッシュの場面で力が入った。力が入れば自分たちのプレーはできない」と語ったが、あれだけ多くのビッグチャンスを作りながらも、ゴールという喜びを一度しか味わえなかった川崎のサポーターは、消化不良のままで帰途についたのではないか。

どんな優れた戦術やコンビネーションプレーがあっても、最終的にゴールを挙げるという行為は、突き詰めれば個人の能力だ。GKの届かないゴール枠内にボールを送り込む能力が個人に備わっていなければ得点は生まれない。

サッカーではゴールマウスのラインをボールが越えれば、得点になる。「何を言う、そんなの誰でも分かっている」と反論されるだろうが、実情を見ているとそれがJリーガーであっても、日本人選手の大半は「とりあえず」のパワフルなシュートを好むようだ。だからインサイドキックよりはるかに正確性に劣るインステップキックでシュートを打ち、ゴール枠を外す。さらにGKの正面にぶつける。それはしょうがないだろう。なぜならインステップキックは、ストレート系のボールしか飛ばないからだ。

インステップの弊害は、おそらく日本の少年サッカーの指導法にあるのだろう。非力な子どもたちは、ボールをゴールに飛ばすためにはその正確性を抜きにすればインステップなら距離が出ることは疑いない。ただ、子どもたちが成長し筋力がついた時点で、強さよりもコースを狙う正確さ、すなわちよりボールのコースをコントロールしやすいインサイド、またはインフロント気味のキックに切り替えていく指導法が日本には欠如しているのではないだろうか。

興味深いことがある。「キック」の国、イングランドの少年サッカーの教本には、シュートは強さよりもコース。そのためには一番正確にボールを蹴ることのできる足の内側の側面(日本でいうインサイドキック。イングランドにはインステップやインサイドという言葉は存在しない)でボールをとらえようと記してある。プレミアリーグのゴールシーンを見てもほとんどがインサイドによるシュートということは、やはりこのキックが理にかなっているのだろう。

パワフルなキックでなくてもゴールは奪える。ここのところお手本は目白押しだ。香川真司のノリッジ戦のハットトリック。1点目は体の向きとは違う右サイドにアウトサイドで送り込んだ。2点目は遠藤保仁のコロコロPKにも共通するコロコロシュート。GKの体重の乗った足の逆を突けば、あれだけの弱いシュートでも入るということを証明した。さらにスペインのラウル・ゴンサレスを彷彿とさせるチップキックによる浮き球のおしゃれなゴール。GKが倒れ込むのを見越したシュートは、冷静さの賜物だった。

そのような技巧的なゴールは3月13日の日本でも見られた。ACLのセントラルコースト戦。柏のレアンドロ・ドミンゲスが挙げた、スルーパスに右足で合わせた1―1のゴール。さらに左足ダイレクトでの3―1としたシュートは、ともにインサイドの面でボールを正確にとらえたものだった。対照的にこの試合の後半にレアンドロの1点目と似た右の角度から工藤壮人が放った右足インステップでのシュートは、腰が回り切らずにニアサイドネット外に引っ掛かった。入るかどうかは別にして、このボールをインサイドでとらえれば足首の角度を少し変えるだけで、ボールはゴール枠を外すことはなかっただろう。

次元は違うが、UEFAチャンピオンズリーグ第2戦のミラン戦でのメッシのシュートは「ゴールはこうやって奪う」というお手本だろう。開始5分に左上隅に突き刺した1点目。インフロント気味にカーブをかければ正面にDFが立ちはだかっても枠をとらえられるということの証明だった。さらに前半40分の2点目は同じ形から今度はゴール右を狙った。このシュートは明らかにタックルに来る相手のリアクションを見越して、股の間を狙っている。日本ではDFを外してシュートを打つということが教育されているために、相手にボールを当てることが多いのだが、ゴールを量産する偉人が意図してやっているプレーを日本人も真似しない手はないだろう。

1964年の東京五輪を前に、当時の日本代表選手の間には「スナップが利いている」というボールの蹴り方があったと聞く。いまの常識では考えられないが、足首がグラグラした状態だったという。それをデットマール・クラマーに修正された。ここまでのギャップはないだろうが、常識と思っていたものが本当は違うということはあるのだろう。

少し頭を柔軟にして、サッカーの原点に戻る。ゴールを奪うためには、まずゴール枠を外さない。そういう考えを持つ選手が増えれば、日本のスタジアムにはもっとゴールの歓喜の瞬間が増えるはずだ。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている