日本人ボクサーはタイでは勝てない。これは日本ボクシング界のジンクスの一つだ。その鬼門に敢然と挑むのが世界ボクシング評議会(WBC)スーパーフライ級チャンピオンの佐藤洋太(協栄)である。5月3日、タイでシーサケット・ソールンビサイと3度目の防衛戦を行うが、果たして「マジカル・ボックス」はどうクリアするのか。

タイで日本人が初めて世界戦を行ったのは1963年1月のファイティング原田(笹崎)で世界フライ級の初防衛に失敗し、64年の海老原博幸(協栄)もタイトルを守れなかった。原田、海老原とも文句なしの内容でポーン・キングピッチ(タイ)から王座を奪っているだけに、この連敗には正直、驚いた。しかし、帰国後の原田の口からタイの劣悪な環境が明らかにされ、皆が妙に納得したものだ。例えば控室からリングまで。ファンに取り囲まれ、進むに進めない状況で、スタミナを使い果たしたという。さらに地元判定も明白で、よほどの大差でない限り勝利をつかむことはできない。

その後、花形進(横浜協栄)もチャチャイの壁を崩せず、内藤大助(宮田)もポンサクレックに1回34秒でKO負けしたこともある。コンディション調整がかなり難しく、なかなか普段の力を発揮できない。あの内藤でさえ何も出来なかった。

例外が二つある。日本所属の男子選手として唯一の勝利を挙げているのが93年3月、WBCフライ級王座を防衛したユーリ・アルバチャコフ(協栄)。当時のユーリは安定感が抜群で、力が抜きん出ていた。女子では、2010年4月、WBC女子ライトフライ級王者の富樫直美(ワタナベ)が防衛に成功している。

さて、そのタイで佐藤はどのようなボクシングを見せてくれるのだろうか。世界王座に就いて以来、防衛を重ねるたびにたくましく変身している。スピード豊かな左ジャブ、フットワークに磨きがかかり、パワーも確実にアップしてきた。いい意味でのプライドが佐藤を支えているようだ。今回の防衛戦についても「史上初に挑めるのは楽しみ。旅行に行く感覚で行ってきます」と自信たっぷり。また「ボクシングを楽しみたい」が口癖の一つでもある。プレッシャーがあるほど、伸び伸びと闘えるのも持ち味だ。日本人男子がどうしても破れなかった壁を乗り越えられるか。ゴングが待ち遠しい。(津江章二)