第3回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は3月2日に開幕するが、代表チーム「侍ジャパン」に勢いが感じられない。1次ラウンドではブラジル、中国そして大会を通じてライバルとなるキューバと戦う。上位2チームに入ればいい1次突破に問題はないだろうが、ここでしっかりチームを立て直さないと、2次ラウンドそして17―19日の米サンフランシスコでの準決勝、決勝に向けて心配だ。大会3連覇へのプレッシャーもあるだろうが、侍ジャパンの踏ん張りどころで、山本浩二監督の手腕が問われている。

▽阿部は打撃に専念を

今大会の日本代表には大リーガーが一人も参加していない。過去2回とは戦力的に落ちるのは間違いない。勢い、投手陣を軸にミスを少なくして接戦を勝ち抜く戦いに徹するしかなく、そうした方針で戦っているようだ。しかし、盛り上がりに欠けている。

「チームを一つにする」ために、主将に指名されたのが巨人・阿部慎之助捕手。昨季の阿部捕手は三冠王にも手が届くかというような成績を残し、今季の年俸は5億7千万円と、球界の顔に上り詰めた。しかし、阿部捕手は打っていくらの選手で、投手のリードではしばしば難点が指摘されており、WBCのような短期戦では不安材料になりかねない。それに、チームをまとめ引っ張るタイプではないように思う。壮行試合などを見る限り打撃はどん底状態だが、山本監督は「絶対4番から外さない。今回は阿部のチーム」と言う。そうだろうか。どうも、関係者みんなが第1回大会の王貞治監督とイチロー選手の名コンビぶりを意識し過ぎているように思う。阿部捕手自身も意識して重圧がかかっているようだが、ここは持ち前の打撃に専念すべきで、実質的なキャプテン役は最年長の日本ハム・稲葉篤紀選手に任せればいい。そんな決断も、監督にあっていい。

▽あのイチローでも胃潰瘍

4年前の第2回大会では、原辰徳監督がイチロー選手を別格扱いしようとして、あるコーチから「やってはいけない」とたしなめられたと聞いた。こうした特別扱いを他選手が知ったら、まずやる気はそがれる。大会でのイチロー選手は体調不良もあって不振を極めた。決勝戦の延長で決勝の2点打を放って最後の最後で存在感を示したものの、大会後には胃潰瘍から「故障者リスト」入りし大リーグ開幕から8試合を欠場した。もし特別扱いされていたら、日本の2連覇はなかっただろう。

▽監督―コーチを一本化

プレーするのは選手たちだが、現場首脳陣の一本化も山本監督の重要な仕事である。選手に負けず劣らず個性的なコーチもいて、監督然として振る舞われては、とても一つにはまとまれない。監督はコーチ陣をしっかり掌握し、監督の意図を正確に選手に伝える。これは勝敗に直結する話だ。チームが弱いと不協和音が出かねない。本番を前に監督主導を再確認しなければならない。

山本監督が現状の流れを変えたいと思うなら、1986年の広島―西武の日本シリーズを思い起こしてもらいたい。日本シリーズ史上で唯一、第8戦までもつれ込んだ年だった。第1戦を引き分けた後、広島が3連勝して王手をかけ、マスコミは阿南準郎監督を「新人監督とは思えない名将」と持ち上げたが、なんとそこから4連敗してしまった。4敗はいずれも接戦だったが、結局、西武へ傾いた流れを最後まで変えることはできなかった。後日の取材では、選手たちから「ここというときに動けなかった監督」へ疑問の声が上がったものだ。現役だった山本監督も覚えているだろうし、当時の西武には今回、投手コーチを務める東尾修氏も投げていた。どういう手を打てば流れが変えられるか。経験から知恵を絞ってもらいたい。

▽夢をくれないプロ球界

2月に加藤良三コミッショナーが巨人キャンプ地を視察した際、前回の優勝監督の原監督に「日本が米本土での準決勝に進めば渡米してもらいたい」と要請したそうだ。WBCはオールジャパンでということだろうし、巨人が代表チームづくりに力を貸したことなどからの招待なのだろうが、山本監督以下、現場首脳陣や選手たちはやりにくいだろう、と思う。プロ野球選手会のWBC不参加表明にはじまり、難航した代表監督選び、メジャー選手参加ゼロ―など、盛り上がりに欠けることばかりだった。加藤コミッショナーへの非難の声は記憶に新しい。

そんな時、目に飛び込んできた短い記事があった。サッカーJリーグが来年から「J3」を新設することを決めたというもの。全国都道府県にJクラブを広げる、「百年構想」に沿ったもの。野球界もプロ・アマ交流は徐々に進んでいるが、それ以上の「夢」を長い間、聞いたことがない。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。

ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆