なんのインフォメーションもなくて、この試合を見ていたら、大人の試合と思っても不思議はなかった。それだけレベルが高く、しかも展開的にも楽しめた試合だった。

ともに大会前は、決して評価が高いとはいえなかった宮崎県の鵬翔と京都府の京都橘の一戦。大雪のために順延された高校選手権決勝は、一つのきっかけで短期間に驚くほどの成長を見せるこの年代の、無限の可能性を示した試合だったのではないだろうか。

いわゆる技術的に難のある選手というのは、もはや高校生といえど、このレベルには存在しなくなった。小学生の年代から正確なボール扱いを身につけているのが当たり前となり、競技レベルでもかつての高校選手権とはかなり変わってきている。

名勝負を生み出す要素。その一つがタイプの違うチームが、お互いの持ち味を発揮しようとし、それがうまい具合に噛み合ったときではないだろうか。いわゆるオーソドックスなスタイルながらもチームの戦い方が整理され、パワフルでスピードのある鵬翔。対する京都橘の持ち味は、しっかりした守備にアクセントを加える攻撃陣のテクニカルさ。タイプの違うチームの対戦というのは、時としてまったく噛み合わないということもあるのだが、この両チームに限ってはよい意味ではまった。

高校サッカーもより戦術的になり、守備におけるプレッシャーは昔とは比較にならないほど厳しくなった。そのなかで、攻撃にアイデアのないチーム同士が対戦すると、中盤での潰しあいに終始し、つまらない内容になる。その点この両チームには、厳しい守備をかいくぐりゴールをこじ開けるだけの切れ味が攻撃面でもあった。

決勝戦で生まれた4ゴールのすべてが、攻撃側が明確な意図を持ち主導権を握った末のものだった。京都橘の先制点となる林大樹の弾丸シュート。鵬翔の一度目の同点ゴールとなる芳川隼登のびっくりするほどの打点の高さを見せたヘディングシュート。再びリードを奪う京都橘の小屋松知哉とのコンビネーションから生まれた仙頭啓矢のゴール。そして、鵬翔の2度目の同点のきっかけとなった日高献盛の突破と、胆の据わった矢野大樹のPK。守備側のミス絡みで生まれたものでなかったことが、より試合の質を高めたといってもいいだろう。

延長戦も含め、濃密な110分の末の勝敗の決定の仕方がPK戦だったのは、両チームにとってちょっと残酷だった。ソクラテスやプラティニ、ロベルト・バッジオと、ワールドカップ(W杯)の歴史を振り返ってもPK戦では不思議とエースといわれる選手が外すのだが、この試合でもそのジンクスが当てはまってしまった。素晴らしいテクニックで国立競技場を沸かせていた京都橘のゲームキャプテン、一番手の仙頭のシュートは無情にも右ポストを直撃。ゴールラインを割ることができず、結果的にこれが勝者と敗者を分けることになった。

たしかに仙頭に関しては「不運」だったとしかいいようがない。一人で責任を背負って泣き崩れる若者を目にすると、この歳になるとウルッときてしまう。ただ解説者やアナウンサーが、ことさら「運」を強調するPK戦に関しては、僕自身はそうは思わない。個人に対しての運はあるだろうが、チーム全体に対する影響は小さいと考える。基本的に5人のキッカーが登場し、GKにも5回のシュートストップの機会が与えられるわけだから、技術と度胸を併せ持ったキッカーと優秀なGKがいるチームが勝つ可能性のほうが当然高くなる。そして大会がトーナメント方式である以上、PK戦に備えた準備がされているかどうかで、大会に残す足跡は大きく変わる。その好例がW杯でのPK戦を4戦全勝しているドイツだろう。

大会初となる6試合中4試合がPK戦勝ち。そのような日本一など、今後もそう簡単には出現しないだろうが、驚いたのは鵬翔のキッカーの度胸のよさだ。PKで一番悔いを残すのは、小細工をして失敗すること。同じ失敗でも思い切り蹴っての失敗の方が、まだ気持ちの整理がつけやすいのだが、PK戦への慣れもあるだろうが鵬翔の選手たちには迷いがなかった。

「気持ちの強い子たちばっかりで最高」

今大会の出場チームのなかで最年長となる松崎博美監督の言葉がすべてを物語っていたと思う。全国大会に出てくるレベルの選手たちのキックの技術に問題があるはずがない。PKの成否は、ほとんどが心理的なものだ。その中で繰り出された、けれん味のないキック。GKを相手にするのではなく、自分の狙った所に迷いなく蹴る。自分たちの積み重ねてきたものへの確信を持っている者ほど強いものはない。それが今年の鵬翔のイレブンであり、準決勝、決勝と常にリードを許しながらも粘り強く追いついた強い心が、結果的に宮崎県勢初の優勝という快挙につながった。

「日々伸びてきたと感じています。ほとんど全員が」

昨年の12月30日に幕を開けた高校選手権。あれからわずか3週間弱。松崎監督も感じる選手たちの急激な変化。成長する若者を見られるから、高校サッカーは面白い。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている。