地に足がついた判断だと思う。日本ハムのゴールデンルーキー、大谷翔平選手が2月1日からの春季キャンプで2軍スタートとなったことについてである。1月の自主トレで何かがあったわけではない。栗山英樹監督は「(大谷選手は)こちらの想定以上に体を追い込める状況にある」と言ったほどだから、順調なのだろう。身長193センチの大型選手だが、まだ18歳。キャンプでは心技体の面、また「二刀流」挑戦などもありじっくり育てる方針のようだ。こんなところにも、日本ハムの浮つかない球団運営を見る思いがする。

▽ぶれない長期ビジョン

大リーグ志向一辺倒だった大谷選手の獲得で一気に注目された日本ハムだが、実は「静かな革命」に取り組み、ここ数年、成果を上げてきている。「静かな」というのは、あまり世間の注目を浴びなかったという意味であるが、「革命」はこれまで日本の球団が取り組まなかった方法で球団を変革したからである。それを簡単に言うなら「データをフルに使うやり方」と「球団運営での長期ビジョン」をぶれずにやり通すこと、である。

データを駆使してチームづくりをするやり方は映画「マネーボール」で紹介された大リーグのアスレチックスと同一線上にある。日本ハムはさまざまな項目で選手を評価し点数化する「ベースボール・オペレーション・システム(BOS)」を活用しており、これを新人選手獲得にも使っている。大谷選手や一昨年指名した菅野智之投手(現巨人)も「1位指名にふさわしい選手」とはじき出した結果だったそうだ。

▽札幌移転を機に体質改善へ

日本のプロ野球チームの大半は親会社の広告塔として運営されているが、日本ハムは親会社に依存しっぱなしの赤字体質から脱却し、経営健全化を大目標に掲げて体質改善に取り組んできた。そのきっかけは2004年、本拠地を東京ドームから札幌ドームに移したことだった。球場借り賃で大赤字に悩んでいた日本ハムは札幌に移転するとともに親会社からの独立に踏み出す。「地域密着型経営」と「選手育成」による経営改善とチーム強化だった。

昨年、栗山新監督でいきなり日本シリーズに出場できたのも、藤井純一前球団社長に言わせると「常に優勝を狙うべく考えているから、そう一気に成績は落ちないと思っていた」となる。

▽ヘッドハンティング

札幌移転時の監督がヒルマン氏だったことも幸いしただろうし、フロント一新の中で、ヘッドハンティングも実行した。その一人が吉村浩・現チーム統括本部長である。パ・リーグ職員だった吉村氏は一念発起して、大リーグのタイガースで球団運営を3年間勉強した。帰国後の02年からは阪神球団の社長付として手腕を発揮。そして日本ハムに呼ばれた。札幌移転1年目のオフだった。「チームづくりはフロント。現場は監督」との大リーグのやり方を徹底して追求する軸は、この吉村氏だろう。吉村氏とは米国行きの前、そして帰国後もよく話をしたものだ。フロントとしてプロ野球に携わりたいという明確な目標を頼もしく思っていたからである。

▽一時は弱体化したフロント

日本ハムが東映―日拓ホームを継いで球団経営に乗り出したのは1974年からだから、かれこれ40年近く前になる。当初は新球団らしくアイデアにあふれた球団で、画期的な子ども向けのサービスなどに取り組んだ。81年に大沢啓二監督で19年ぶりのリーグ優勝を果たしたが、その後は主役を西武に取って代わられ、選手個々はタイトルを取ったりしたが、優勝争いに絡めない状態が続く。いつの間にか「パで一番勢いのあったフロントが一番弱体化した」ことをよく覚えている。親会社の意向ばかり気にし、フロント人事は停滞したままになったからだ。

▽人材抜てき、大型トレード

現在の日本ハムはかつての西武を思い起こさせる。今季、ヘッドコーチに抜てきしたのは阿井英二郎氏。元ヤクルト投手だが、昨年まで高校野球の監督を務めていた。栗山監督にとってはヤクルト時代の後輩だが、この人事はフロント主導。高校野球で培った経験を発揮させる狙いがあるそうだ。面白い試みだ。そして4年連続打率3割以上をマークしていた糸井嘉男外野手を軸にした2対3の、最近では大型の交換トレードをオリックスと成立させた。こうした積極的な姿勢は巨人にも見られるが、他球団では、なかなかお目にかかれない。せいぜいFA選手や外国人選手の獲得止まりである。

日本ハムは勝つために最善と思われることをやり続けている。素人集団ではないフロントが明確な指針の下、ぶれずに実行する。まだ球団強化策などを監督に丸投げする球団があるが、フロント強化に着手して球団を強くすることが、親会社からの独立、ひいては球団の資産価値を高めることになる。そのことを日本ハムが示しているのである。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。

ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆