サッカーのワールドカップ(W杯)欧州予選で10月、アイルランドが1-6でドイツに惨敗した。イタリア人のトラパットーニ監督の去就も取りざたされたが、次戦でフェロー諸島を4-1で下し、73歳の老将の続投が決まった。だが、11月14日にギリシャとの親善試合も0-1で敗れた。このニュースを読み、ふと「あの人はまた怒っているかな」と思い浮かべた。

あの人、とは今夏の欧州選手権の取材中にポーランドで出会ったアイルランド人の中年男、パットさん。アイルランドは1次リーグで3連敗して敗退したが、どんな状況でも熱い応援を続けるサポーターは各方面で絶賛された。共催国ウクライナのブロヒン監督も、負けるとすぐにブーイングし、試合中に何度もウェーブを起こすなど“空気の読めない"地元ファンに「アイルランドを見習ってほしい」と苦言を呈したほどだった。

パットさんもそんな熱いサポーターの一人だったが、トラパットーニ監督については「彼はイタリアに住んでいるし、アイルランドにはめったに来ない。本当は選手のことなんてよく知らないんだよ」と愚痴をこぼした。ドイツ戦もギリシャ戦でも、きっと声を荒げて怒りながらも、最後まで応援していただろう。

彼と知り合ったのは、ワルシャワの電車内だった。「お前は記者か?」。「はい…」。「そうか。俺はこういう者なんだが」と言って、名刺を差し出してきた。そこにはInternational Soccer Fan+Collectorという肩書があった。いわゆる収集家だった。声を掛けた理由が「公式記録の紙が欲しい」というもの。大会の公式サイトからもダウンロードできるので、それを教えると「もちろん知っている。でも実物であることが重要なんだよ。まあ普通の奴には理解できないだろうけど…」と寂しそうな顔を浮かべた。長期出張中で少しでも荷物を減らすため資料類は捨てるようにしていたが、その時はたまたま前日の試合のメンバー表を持っていたので渡すと、「これだよ、これ! ありがとう」と感激された。そのわりには、紙を雑な四つ折りにしてリュックにしまったのは気になったが…。

パットさんはアイルランド代表とトットナム(イングランド)の大ファンで、昨年はアルゼンチンで開催された南米選手権も観戦したという。その理由が、1980年代初頭にトットナムで活躍した元アルゼンチン代表のビリャの生まれ故郷を訪ねるためだった、という。マニアならではの発想に驚いた。日本にも2002年のW杯の時に来て、「新潟と鹿嶋はよく覚えている。みんな本当に親切だった。それから雑誌は写真がきれいだからたくさん買ったんだ」と思い出話を語ってくれた。

名刺の裏にはCollect&Exchangeと書いてあり、「世界中の人と、よく物々交換をしている」とのこと。筆者にも「この先の試合の公式記録も郵送してもらえるかな。その代わり、欲しいものがあれば何でも送るから」と、ダブリンの自宅住所を教えてくれた。別れ際には使い古したアイルランド代表のロゴ入りボールペンもくれた。

ちょっと悪いなと思いながらも、出張中はパットさんに何も送れなかった。そして何の連絡もしないまま、気が付けばもう5カ月。せっかく日本と日本人に抱いている好印象が悪くならないように、今度クリスマスカードとともに何かJリーグのグッズでも送ってみようかと思う。

田丸 英生(たまる・ひでお)1979年生まれ、東京都出身。共同通信名古屋、大阪運動部を経て、09年12月から本社運動部。担当はサッカー、ボクシング、相撲。