トリノ冬季五輪女子金メダルの荒川静香や安藤美姫(トヨタ自動車)浅田真央(中京大)が火付け役となったフィギュアスケート人気は、高橋大輔(関大大学院)羽生結弦(宮城・東北高)ら男子の活躍も相まって高まる一方だ。チケットの入手が困難な全日本選手権だけでなく、グランプリ(GP)シリーズや世界選手権など海外の試合にも多くのファンが応援に訪れ、観客席に各選手の応援旗や日の丸が揺れる。どの国に行っても、日本選手にはホームでの戦いのような雰囲気が用意されている。

3日に閉幕したGP第3戦、中国杯もそうだった。尖閣諸島の国有化に端を発した日中関係の悪化で、一時は選手派遣の中止が懸念されたが、日本スケート連盟は警備員の同行などで安全を確保できると判断し、予定通りの出場が決定した。人気選手の浅田、高橋が今季GP初戦を迎えるということもあって、現地の治安に不安が残る中でも多くの日本人が上海に駆け付けた。選手が滞在したホテルのロビーは、いつも通り“出待ち"のファンであふれた。

危惧された混乱は、全くなかった。むしろ、地元の観客も日本勢に温かい声援を送っていた。世界選手権で優勝している浅田や高橋の人気は思っていた以上に高く、会場の運営に当たったボランティアや中国協会の職員、はたまた地元メディアの記者まで記念撮影やサインを求める状況。国内のみならず、海外でも日本選手の知名度が上がっていることを、身をもって感じた。

ファンあってのプロスポーツと言われるが、野球やサッカーに肩を並べるほどの集客力を持つフィギュアスケートは、今やアマチュアスポーツの枠を超えている。トップ選手はマネジメント会社に所属して専属のマネジャーが付き、CMやテレビ番組にも出演する。しかし、人気拡大のスピードに、強化や普及を担う日本スケート連盟が追い付いていないのが現状だ。

特に改善を期待されるのが、国内外のファンに向けた情報発信。たとえば米国フィギュアスケート協会は専属の広報スタッフが主要大会に同行し、得点や演技内容の速報や選手のコメントを短文投稿サイト、ツイッターで流している。コーチや練習拠点の変更といったニュースも、随時プレスリリースとして提供される。2007年につくられたフィギュアスケートの専門サイト『アイスネットワーク』を介して、インターネットでの情報発信を強化し、有料ながら試合のライブ映像や過去の動画を見ることもできる。これらの取り組みは、日本で行われていない。選手とファンを結ぶメディアへの対応にも差があり、米国やカナダの競技団体が毎シーズン更新して配布する選手情報や歴代優勝者を載せた名鑑も日本にはない。

国内の競技団体でもファンを意識した取り組みが広がりを見せ、日本体操協会はインターネット交流サイト「フェイスブック」や、公式サイトの体操NIPPON(http://taisou-nippon.com/)で注目選手のインタビュー映像やコメントを掲載し始めた。海外メディアも意識し、世界選手権では英文の選手名鑑を用意している。

海外にも日本選手のファンが根付いている昨今、英語での情報発信も期待される。日本の選手や指導者の不断の努力が好成績に結実し、メジャースポーツの地位を獲得するまでに至ったフィギュアスケートだが、強化の遅れで国際競争力が低下したり、普及を怠ったりすれば、あっという間にマイナースポーツへ転じかねない。人気、知名度に伴う放送権料やスポンサー契約など、選手がもたらしたさまざまな恩恵に競技団体はあぐらをかかず、還元していかなければいけない。

井上将志(いのうえ・まさし)2003年共同通信入社。名古屋でプロ野球中日、フィギュアスケートを担当。現在は本社運動部でフィギュア、体操、陸上を中心にカバー。バンクーバー冬季、ロンドン夏季五輪も取材。東京都出身。