ワールドカップ(W杯)アジア最終予選に入ってからの中東で行われるアウェーゲーム第1戦(14日・マスカット)で、日本代表はオマーンとの戦いを無事に乗り切った。幾度かの決定的なピンチもあったが、内容はともかくとして、勝ち点3をもぎ取ったという事実は、手放しで喜んでもいいだろう。1試合消化の少ないオーストラリア、同じく5試合を行っているイラク、オマーンはともに勝ち点5。この2位グループに8ポイント差をつけて首位を走る日本のブラジル行きは、よほどのことがない限り堅いだろう。

2次予選から6戦無敗と、ホームのマスカットでは絶対的な強さを見せるオマーン。この曲者を最終的に葬ったのが、日本のサイド攻撃だった。前半20分、今野泰幸のDFライン裏への浮き球のパスを左サイドからボレーで折り返した長友佑都のプレー。浮き球を低く抑えたクロスは、相手DFに当たってゴール前へ。これをファーサイドとなる右のエリア、相手DFの背後からゴール前に入り込んだ清武弘嗣が代表初ゴールとなる左足シュートで先制した。

さらに1-1とされ、引き分けかと思われた終了間際の後半44分に生まれた劇的な決勝点も左サイドからだった。後半19分から左サイドバックに投入された酒井高徳が積極的に仕掛け、そのクロスをニアサイドに入り込んだ遠藤保仁がイブラヒモビッチばりのカンフーキック(イブラヒモビッチだったら、そのままゴールだったろうが)。コースが変わったところを、右サイドのDFの背後から詰めた岡崎慎司が押し込んで決勝点を奪った。

サイドからの攻撃の有効性は普遍だ。近頃ではバルセロナの中央突破という戦術が、あまりにも美しいので、「攻撃は中央もありかな」と考えを改める人もいるかもしれないが、この試合を見てもやはりサイドを崩すことは得点につながりやすい。ボールサイドにDFの視線を食いつかせることができれば、DFがその逆サイドの選手をつかまえるのは、背中に目がついていない限りは難しい。さらにこの日の日本の得点の場面を見ても、1点目は前田遼一、2点目も遠藤がニアポスト際に忠実に入り込み、おとりの動きを見せた。当然、DFは当面の危険人物である彼らにも注意がいく。逆サイドの選手は、ゴール前に入り込むタイミングさえ測れば、フリーの状態を作れるのだ。その意味で、日本のゴールシーンは、教科書に載せたいぐらいの鮮やかなサイド攻撃だった。

しかし、このようなサイド攻撃は、どのチームもができるものではない。当然のごとく、サイドに技術と突破力、さらに正確なクロスを上げることのできるプレーヤーが不可欠だ。そのなかでも相手を押し込んだときにフリーで攻め上がることのできるサイドバックの質が重要になってくる。

この日のオマーン戦でも格の違いを見せつけた長友に加え、駒野友一、内田篤人、宏樹、高徳の2人の酒井と、現在の日本代表には、アジアでも屈指の攻撃力を持ったサイドバックが名を連ねる。これらの存在がサイドに複数人いるというのは、日本のサッカーの底辺が確実にレベルアップしているという証明ともいえる。なぜならばサイドの充実は、その国のサッカー国力の目安なのだ。では、なんでそういえるのか。

これは他の競技にもいえることだろうが、ポジションとは常に競争によって勝ち取っていくものだ。サッカーの場合は、技術的に高い選手はピッチの中央のポジションを与えられることが多い。そのなかで乱暴な言葉でいえば360度全方向からのプレッシャーに状況判断、技術的に耐えられない選手が、徐々に半分の180度の視野でプレーするサイドのポジションに追いやられていくのだ。例えばメッシや香川真司みたいな能力を持った選手を、子どものころからサイドで起用する指導者は、まずいないだろう。

いい例がブラジル代表だ。この国のポジション争いは、前から後ろに追いやられる。彼らは、その幼少期はほとんどが攻撃の選手なのだという。うまい選手は攻撃のポジションを保ち続け、競争に敗れた選手が、年代を重ねるごとにポジションを下げていく。プロとなってDFを務めている選手も幼少期は攻撃のエースだったのだ。だからブラジル代表は、CBであってもシュートがうまくアイディアも豊富なのだが。

日本がアジアに誇るサイドバック陣。彼らがサイドのポジションを務めるのは、育成過程で、体格やフィジカル能力など、様々な要素を考慮されてのことだろう。ただ一ついえるのは、このような質の高い選手をサイドで使えるということは、日本は中央にも優秀な人材が数多くいるということ。もしかして現在はサイドバックを務める彼らのなかにも少年の頃「本当は真ん中をやりたかったのに」という経験を持つ選手がいるのかもしれない。

いずれにせよ、日本の選手層は確実に厚くなっている。都並敏史の骨折で、左サイドバックのポジションをMFの三浦泰年やCBの勝矢寿延でカバーしていた「ドーハの非劇」の時代が嘘のようだ。そのなかで将来的にCFとCBのポジションにも、現在のようなサイドバックと同じことがいえる時代が来たとき、世界のなかでの日本の立ち位置は劇的に変わっているはずだ。「世界と対等に戦える」と。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている