誰もが認める文句のつけようのない才能を持ち、事実その能力に見合った実績をトップレベルの戦いで残している。ところがその活躍の場は、所属クラブに限られる。過去にそういう選手を数多く目にしてきたが、もしかして香川真司もこの類に属するのではないのだろうかと、ちょっと心配している。

10月23日のUEFAチャンピオンズリーグ。ブラガ戦で左膝を負傷した香川に対し、日本協会は11月14日のW杯アジア最終予選のオマーン戦の招集を断念した。香川は9月11日の埼玉スタジアムでのイラク戦でもチームに合流こそしたが、直前に腰の違和感を覚えてメンバーから外れた。このことを考えれば、「なんで香川だけにアクシデントが起きるんだろう。それも代表の試合に限って」と不思議に思えてくる。

振り返って考えると、昨年1月にカタールで行われたアジアカップ。日本が大会史上最多となる4度目の優勝を飾ったこの大会でも、香川は準決勝の韓国戦で右足小指付け根を骨折し、優勝の瞬間にピッチには立っていなかった。これは偶然なのだろうか。

所属クラブでは抜群のパフォーマンスを見せながら、代表チームでは十分に能力を発揮できない。その不調が4年に一度のワールドカップ(W杯)に重なる選手もあれば、代表チームに合流したときに窮屈さを感じさせる選手もいる。

前者でいえば古いところでは旧西ドイツの稀代のゲームメーカー、ギュンタ・ネッツァーが思い浮かぶ。1974年の自国開催のW杯で優勝したのだが、ネッツァーが出場したのはわずか1試合のみ。しかもその東ドイツ戦は、この大会で西ドイツが唯一敗戦を喫した試合だっただけに、彼の「運」のなさは余計に際立った。

身近なところで、似たような印象があるのは中村俊輔だ。2002年日韓W杯では、誰もが耳を疑うメンバー落ち。10年南アフリカW杯では主力として期待されたにもかかわらず、大会直前に調子を落として試合出場はなし。06年のドイツ大会こそ「10番」として出場したが、本来持っている能力の半分も出し切ったとはいえなかった。

素人目から見れば「超一流のプロフェッショナルが、本人もスタッフも加え万全の調整をしているのに、なんで試合に合わせられないの?」と不思議に思うのだが、事実そのような選手はいる。そこには論理的に説明することのできない、運や巡り合わせ、バイオリズムなんていうことも関係しているのだろう。世界選手権では圧倒的に強いのに、五輪では金メダルに縁のないアスリートというのも、きっとこの類なのかもしれない。

香川の場合、ネッツァや中村俊輔とはまた違った意味で「代表チームとの相性が悪いのでは?」と感じている人も多いのではないだろうか。もちろん香川には、まったく非はない。それどころが、日本にいながらにして世界のトップフットボーラーをより身近に感じられるようになったのは、香川がマンチェスターUでプレーしているからだ。特に子どもたちは「香川がマンUでできるのなら、僕だって」という思いを持っているはずだ。モチベーションを高めるという意味では、どんなに優れた指導者のアドバイスよりも効果的だ。ただ、なぜかその絶大な影響力を放つのは、彼がドルトムントやマンUのユニホームを着て、欧州でプレーしているときだけなのだ。

ドルトムントでの大活躍が認められて、世界屈指の名門クラブ“レッドデビルス"(マンUの愛称)に迎えられた。まだ無名だった10代のデービッド・ベッカムやクリスチアーノ・ロナルドの才能を見抜いた名将ファーガソンの眼鏡にかなった才能を疑う余地はないだろう。しかし、その欧州を舞台に見せてきた名演技に比べれば、日本代表でのプレーにはなぜか物足りなさを感じさせる。

「そんなことはない。うまいじゃないか」と反論する人はいるだろう。確かに試合のなかで「うまいな」と思わせる場面に度々出くわす。しかし、先日のフランス戦で決勝点を挙げるなど、瞬間的に印象に残るシーンはあるものの、1試合を通して「すごいな」と感じたことはほとんどない。あるとすれば、昨年8月10日に札幌で行われた日韓戦。香川自身の2ゴールも含め、3-0の完勝を飾った韓国戦ぐらいのものだ。香川が日本代表で37試合を戦っていることを考えれば、印象に残る確率は決して高いものとはいえない。

普通の選手だったら言わない。マンUの香川だからいうのだ。同じJリーグをプロフットボーラーの出発点に、マンUの一員に上りつめた元韓国代表の朴智星は、アジアではライバル日本に対しても、良い意味で相手を見下すほどの存在感を見せた。それぐらいマンUのメンバーというのは、他の選手から見れば特別な存在なのだ。

香川ぐらいのレベルになれば、起用されるポジションや戦術はそれほど問題ではないだろう。現代サッカーではシステム変更に順応できることも選手の資質の大きな要素。ファーガソンもそれを見極めての獲得だったはずだ。

日本代表の試合後に、勝利を収めたにも関わらず、難しい顔をして首をかしげる香川の表情をよく目にする。その様子からプレーに満足のいかない本人の心情が透けて見える。そのポーズがいつ消えるのか。日本のファンは、少なからず不安に思っているに違いない。代表チームにあまり相性の良くない「背番号10」と。奇しくもネッツァーや中村俊輔と同じナンバーを背負う日本の至宝。香川に対する人々の不安が、杞憂であってほしいのだが…。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている。