学生柔道の名門として知られ、今年の全日本学生柔道優勝大会(団体戦)で準優勝した日大柔道部が、この11月から面白い取り組みを始めた。日大の金野潤監督発案の「総合格闘家・青木真也による寝技教室」である。

ブラジリアン柔術に精通する青木は柔道出身で元ジュニア強化選手という経歴の持ち主。5年前、日大柔道部主催の少年柔道教室にゲスト講師として招かれたことから縁ができ、金野監督が「いつか継続して指導を受ける機会を設けたい。学生との化学反応を見たい」と着想。今秋になって話が進み、「誰もやっていないことだから面白い」と青木が快諾、実現の運びとなった。

始めてみるとこれが大盛況。1回90分の中に青木は多彩なプログラムを用意。グループによる技術開発とその発表、「寝技をしたい人だけ寝技をやる乱取り」など、柔道の稽古では想像も及ばない内容で、学生たちをぐいぐいと青木的寝技ワールドへ引き込んでいく。とくに骨格や筋肉の動きを踏まえた極めへのアプローチに参加者の目は釘付け。練習後、何気なく始まった青木と寝技自慢の部員との乱取りで青木が勝った時には、あまりの鮮やかな展開に自然と拍手が沸き起こったほどだ。参加者の一人であるキャプテンの片岡仁は感激の面持ちで言った。「技のつなぎや、展開の仕方がまったく違う視点から行われていてすごく勉強になります。青木選手の動きを見ていると、柔道はこうでなきゃいけないっていう固定概念があったことに気づかされます」

柔道は柔術から生まれた武道で、両者はいわば子と親のような関係にある。にもかかわらず、アマチュアとプロでそれぞれ独自の発展を遂げてきたことから、個人で柔術を学ぶケースはあるものの、近年ではオフィシャルな場での技術交流はほとんど行われてこなかった。しかし、ロンドン五輪で日本男子が金メダルゼロに終わったことを受け、強化に携わる人たちの間には柔術を含めた異分野から学ぶ部分もあるのでは、という声も上がり始めている。金野監督は言う。「どんなこともやってみなければわかりませんから、どんどんやったほうがいいと私は考えているんです。うまくいかなければ、その次を考えればいい。新しい風を入れることは進化していくために必要なことですからね」

一方、指導する側に立った青木の見解はこうだ。「柔道は環境面で恵まれていて、選りすぐられたアスリートが集まっている完成された世界です。だから、僕たちのような存在は寝技というパーツの指導者としてはできることがあると思う。あくまでもでしゃばらず、パーツとして」。柔道と柔術の間を隔てていた見えざる扉は、少しずつ開かれ始めているのかもしれない。(スポーツライター・佐藤温夏)