今年日本一になった巨人が韓国でアジアシリーズ(11月)を戦っている最中に、巨人とオリックスの間で2対2の交換トレードが行われた。巨人から放出された1人が東野峻投手だった。東野投手は原辰徳監督の秘蔵っ子的存在で、2010年に13勝を挙げ、昨シーズンは開幕投手を任されたエース候補だった。2006年の希望枠入団、いわゆるドラフト1位の金刃憲人投手も移籍したが、沢村拓一、宮国椋丞両投手の台頭などで余剰戦力となったためである。

▽世紀のトレードは昔話

選手たちには厳しさを感じるシーズンオフの一コマなのだが、ドラフト会議での新人補強も入団交渉に移り、各球団とも既存戦力の整備、検討に余念がない。あちこちでトレードが決まっているが、新聞で言えば「大見出し」となる大型トレードに最近はお目にかかれない。大物選手はフリーエージェント(FA)移籍が主流となっていて、時代の移り変わりを感じるのだが、金持ち球団とそうでない球団の格差が広がる一因ともなり、それはそれで問題なのだ。

プロ野球界で「世紀のトレード」と言えば大物選手の交換トレードのことである。契約社会のプロ野球だが、日本社会の終身雇用よろしく一つの球団で選手生活を全うするのが王道とされたが、そこに一石を投じたのが、1963年の阪神・小山正明投手と大毎(現ロッテ)・山内一弘外野手の交換トレードだった。この主力選手同士の移籍話は「世紀のトレード」と大騒ぎになった。主軸打者が欲しい阪神と主戦投手を補強したい大毎の思惑が一致した格好だが、阪神が確実に二けた勝てる小山投手を出した背景には、もう一人のエースだった村山実投手の存在があった。「両雄並び立たず」だったのである。

▽新生西武が田淵を獲得

その阪神は78年に球団を買収したばかりの西武の求めに応じて、力が落ちてきたスーパースターの田淵幸一を軸にした2対4の大型トレードを成立させた。新しい球団の「旗艦」として田淵氏を獲得した西武は真弓明信(前阪神監督)氏を含め4人を放出する大出血を強いられた。ただ、田淵氏は西武の4番打者として日本一を経験するなど、両チームにとってプラスに働いたトレードだった。

86年のロッテ・落合博満選手1人と中日・牛島和彦投手ら4人の交換も記憶にあるが、93年のダイエー(現ソフトバンク)と西武の3対3のトレードは電撃的だった。ダイエーからは佐々木誠選手ら、西武からは秋山幸二現ソフトバンク監督ら。当時の根本陸夫監督が古巣西武へ仕掛けたものだった。中内功オーナーが昼のNHKテレビのニュースでこのトレードを知ったという裏話があり、進行中だったトレード第2弾は、「大衆相手のダイエーのイメージダウン」につながると、オーナーからストップがかかった。

▽軸の交換でチームを大変革

根本監督の狙いは「仲良しクラブみたいに緊張感のないチームの根底からの変革」だった。4番打者でも放出されることでチームの雰囲気は変わったそうで、本気で優勝を狙う意思表示であり、王貞治監督招聘への布石といえたトレードだった。

元ロッテ監督のバレンタイン氏が監督を務めるレッドソックスが今シーズン途中でベケット投手とゴンザレス内野手ら主力4人を放出し、ドジャースから5選手を獲得するメジャー史上にも残るかという大型トレードを成立させ、全米中をびっくりさせた。球団GMは「われわれが目指すチームづくりのために、大改革が必要だった。これで再建へ進める」と、潤沢になった資金で大物FA獲得に乗り出そうとしている。

日本ではFA移籍が主流で、これは止められない流れだが、弱小球団は苦しい。勢い優勝を狙うのではなく、3位以内でクライマックスシリーズ(CS)出場を目指すことになるが、2年前のロッテのように3位から日本一になった例はあるものの、そう簡単に日本シリーズ出場に届くとは思えない。

▽ルーツ監督の「プロの目」

日本球界の経営体質の問題は置くとして、球団はやはり本格的補強を目指すべきで、その知恵と工夫に期待するしかない。こんな話はどうだろうか。

広島が古葉竹識監督で念願のリーグ初優勝を遂げたのは75年だったが、シーズン当初の監督はジョー・ルーツ氏だった。球団の基調カラーを紺色から「戦う赤」にした人物で、その激しい性格が災いし、阪神戦での退場が原因で球団と対立して、わずか15試合指揮を執っただけで帰国した。そのルーツ氏が74年のコーチ時代に残した「ルーツ・メモ」には、自軍はもちろん相手の選手を含めて、適性、トレードが必要なポジションなどが書き込まれていた。他球団間の選手交換リストまであった。こうした「見る目」が衣笠祥雄氏の一塁から三塁へのコンバートや内野の要となる日本ハム・大下剛史選手獲得として実現、優勝の原動力の一つとなった。まさにプロフェッショナルの目である。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。

ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆