小林可夢偉がついに表彰台へ上がった。元ワールドチャンピオンで前年優勝者であるマクラーレンドライバーのジェンソン・バトンと36周目から53周の最終ラップまで続いた手に汗を握る接戦を制した3位だけに、本人やチームの喜びももちろんだが、10万3000人の観客もこれ以上ない感動を覚えたはずだ。

じつは母国GPを迎えるまでの状況は決して良いものではなかった。チームメートのセルヒオ・ペレスは母国メキシコ企業からの豊富な資金支援に加え、今季3度表彰台を獲得し、来年はトップチームのマクラーレン移籍を決めた。一方の可夢偉は、日本企業からのサポートがなく、レースでも不運が続いた。必然的に来季の契約継続にも暗雲が立ち込め始めていた。

だが、シンガポールGPを終えて、日本GPを迎える可夢偉に、気負いするような様子は一切見られなかった。例えば、シンガポールGPを終えた晩、ドライバー仲間たちと宿泊していたホテルでの騒ぎが朝まで続いたのだが、盛り上がったニコ・ロズベルクが可夢偉と一緒にプールへ落下。そのとき携帯電話が水没して使えなくなるハプニングがあった。そのことを土曜日にロズベルク本人に聞くと、「じつは朝8時まで盛り上がって、勢いで可夢偉と一緒にプールに飛び込んだんだ。携帯を水没させてしまったことは後で謝ったけどね。彼はいい奴だ。速いし走りはいつもフェアだからね。もちろん、ライバルだけど日本GPはお互い頑張りたいと思ってる」と楽しいエピソードを明かしながら賛辞を送った。

そしてレース直後に3位を争ったジェンソン・バトンも、「残り10周の時点で追いつけると思っていたけど、届かなかったね。鈴鹿はドライビングサーキットで、可夢偉との戦いは最高に楽しかった。彼の初表彰台が母国GPであったことは、本当におめでとうと言いたい。最高の日本のファンの前だけに彼自身も嬉しかったと思う」と、負けた悔しさをにじませつつも笑顔でエールを送った。

自然体で常にベストを尽くす可夢偉。それがついに形になったのが、日本GPだったのだ。これまでの不運をここで吹き飛ばし、残り5戦でも2回目、3回目の表彰台を狙ってもらいたいと同時に、そんな可夢偉の姿を多くの人に注目してもらいたい。(モータージャーナリスト・田口浩次)