国民栄誉賞の受賞が話題になったと思ったら、ギネス世界記録の認定。五輪3連覇に続き、世界大会13連覇を達成したレスリングの吉田沙保里(ALSOK)の身辺がにぎやかだ。世界大会V13は不世出のレスラーと言われるアレクサンドル・カレリン(ロシア)を超える快挙。モチベーションを途切れさせることなく10年以上も世界トップに君臨したことは、スポーツ界にさん然と輝く不滅の金字塔と言ってもいいだろう。

一方、世界レスリング界での盛り上がりとなると、日本のそれと温度差があるのが実情だ。国際レスリング連盟(FILA)のホームページは10月5日付で吉田の快挙を「最多のタイトル獲得」と載せた。優勝したのが9月28日なので1週間遅れでの掲載。世界のスポーツ界にアピールすべき快挙なのに行動が遅すぎるし、カレリンの記録を上回ったことは書いてなかった。

これは、日本の関係者がFILAに「これだけの快挙を掲載しないのはおかしい」と“抗議"し、あわてて載せたというのが真相。そもそも、FILAには歴代のタイトル歴などを管轄している部署はなく、ホームページの担当者はレスリングに関しては素人同然。吉田の優勝回数がカレリンの記録を抜いたことを認識しているものかどうか。

レスリング界の一般的な感覚は「男子と女子は歴史もレベルも違う」というもので、“異なる世界だから比べられない"という空気があるのも事実だ。

そんな中、米国レスリング協会ホームページ担当者のゲーリー・アボット氏の見解には救われた。吉田が記録を達成した世界選手権で会った時、「なぜ日本からこんなに多くのメディアが来ているか分かる?」と聞いたら、「吉田がカレリンの記録を抜くからだろ」と答えてくれた。

「男子と女子はレベルが違う、とは思わないか?」という問いには、「それはあるが、13回連続優勝は偉業だよ」との答え。同ホームページには、その日のうちに「アレクサンドル・カレリン(ロシア)と並んでいた五輪と世界選手権の優勝記録を超える13大会連続の優勝を達成した」と掲載してあった。レスリング大国が認めてくれた吉田の記録。堂々と国民栄誉賞を受賞してほしい。(格闘技ライター・樋口郁夫)