全階級の世界王者たちを一瞥すると、日本では認知度に難のあるWBO認定の王者ゆえ、その恐るべき実力が見逃されがちな凄い奴がいる。その彼が正真正銘の本物であることを示す良い具体例を紹介しよう。

最初に、3年前の1月、横浜で小堀佑介(角海老宝石)からWBA世界ライト級王座を奪ったパウルス・モーゼス(ナミビア)の技巧を思い出していただきたい。同年7月には、アフリカ大陸ウイントフックの地で嶋田雄大(ヨネクラ)の挑戦を退けたあのモーゼスを。日本人対戦者たちに対峙して極上の技巧を見せつけたこのナミビア人が、今年3月、ほぼ一方的にアウトボックスされて大差の12回判定で敗れている。とくに副審1名の採点によれば、モーゼスがすべてのラウンドを失っているという事実に、この試合の勝者のとんでもない実力者ぶりが推し量られることだろう。彼の名は、29歳のリッキー・バーンズ。さる9月22日、地元スコットランドのグラスゴーにおいて、試合前から今年の年間最高試合間違いなしと太鼓判を押されたイングランドのケビン・ミッチェルとの宿命のライバル対決に衝撃の4回TKO勝利、WBO世界ライト級王座の2度目の防衛に成功したばかりの29歳だ。

一昨年9月、無敗のスーパースター候補ロマン・マルチネス(プエルトリコ)から番狂わせの判定勝利で一階級下のWBO世界王座を獲得し、昨年11月にはこれまた予想を覆し、豪腕マイケル・カチディス(豪州)を堂々の判定勝利で破って同団体認定のライト級王座を獲得したバーンズ。両腕、胸元に彫られたタトゥーの印象から、一見、無頼派と思いきや、練習熱心にして教科書さながらに基本に忠実。世界王座獲得後も偉ぶらず、これまでどおりに街のスポーツ・ショップで感じの良い店員さんとして仕事に精を出す堅実なライフスタイル。アイルランドの誇りと謳われた昔日の名世界フェザー級王者バリー・マクギガン氏は、バーンズこそ、ボクシングジムにその写真が飾られ、皆が彼を目標にして努力するに相応しいお手本とまで褒め称え、称賛の言葉を惜しまない。今回のミッチェル戦での素晴らしい勝利には、さすがにバーンズの実力懐疑派も抗い難く、近い将来のバーンズによるライト級世界王座統一の予想も、今や英国では俄然、現実味を帯びてきているのだ。(草野克己)