今年もプロ野球ドラフト会議(10月25日)の時期になった。藤浪晋太郎(大阪桐蔭高)らの高校生投手に注目が集まっているが、即戦力はなんと言っても、大学球界ナンバーワンの亜大・東浜巨投手だろう。レベルの高い東都大学リーグで通算35勝(リーグ歴代4位)22完封(最多記録)407奪三振(歴代2位)を積み重ね、23日からの青学大戦で奪三振の最多記録410を更新するのは確実だ。この右腕をめぐって数球団がドラフト1位指名で重複するだろう。

▽完成度高い投球術

沖縄尚学高3年の春に甲子園大会で優勝した東浜投手は亜大の1年春から活躍してきた。球速145キロ前後の切れのいい速球、スライダー、ツーシーム、カットボール、フォーク、チェンジアップを駆使した「投球術の完成度」が高い。ここ2年、大学野球からプロ入りした斎藤佑樹(早大―日本ハム)福井優也(早大―広島)沢村拓一(中大―巨人)藤岡貴裕(東洋大―ロッテ)野村祐輔(明大―広島)ら各投手と比べても、実力的には同じか、それ以上だろう。

181センチのスリムな体。研究熱心で素直な性格といいことずくめだが、心配なこともある。それは練習などで投げ過ぎるきらいがあることだ。試合前日に200球近く投げたりするが、こうした調整方法を変えていかないとプロの世界で長く投げられないと思う。もう一つは変化球を軸にすると勝てるが、いずれ壁に当たることになる。斎藤投手や藤岡投手はもっと「直球」に磨きをかけて変化球を生かす工夫がいるし、沢村投手は持ち前の速球でもっと三振を取ることにこだわるべきで、打者を追い込むとすぐに変化球を使おうとするのはよくない。

▽プロの投手を研究

最近の東浜投手が時折大きなカーブを投げるのは今以上に緩急をつけ、投球に幅を持たせようとしているからだ。東浜投手は「4年生になりプロ野球が現実のものとなってきた。テレビなどでプロの投球をよく見るようになった」と話したことがあった。それを聞いて、私は読書好きの東浜投手に1冊の本をプレゼントした。4年前に刊行された「甲子園への遺言」(門田隆将著)。南海(現ソフトバンク)やロッテなど6球団で打撃コーチを務め、名コーチと言われた高畠導宏氏の生涯を描いたものだ。同氏は2004年に60歳で亡くなった。

▽落合などを育てた名コーチ

中大、社会人の日鉱日立を経て強打の外野手として1967年に南海入りした高畠氏を当時、新米記者だった私も取材した経験を持つ。高畠氏はそこで野村克也氏やドン・ブレーザー氏らの「シンキング・ベースボール(今で言うID野球)」の高度な野球と出合う。6年間と選手寿命が短かった高畠氏はその後、打撃コーチとして能力を発揮し落合博満氏など多くの選手を育てることになるのだが、一方で戦略コーチとしての才能を開花させる。一例を挙げれば、選手のクセを見抜く力があり「意識してクセを消したことがない投手なら、直球とカーブの2球も投げれば、球種は全部読める」と言い、あらゆる角度から相手を分析して戦うことを説いている。

今季、独走でリーグ優勝した巨人で注目されたのが橋上秀樹戦略コーチだった。彼もヤクルト時代に野村克也氏の指導を受けて育ち、高畠氏と同じように「野球の深さ」を知った一人だ。

東浜投手に本を通じて伝えたかったのは、投手と野手の違いはあっても、野球を深く追求、実践するコーチや選手が存在するのがプロ野球だということ。いらんお世話だと思いながら、これまで以上にレベルアップしてほしいと思った。プロを目指す選手なら、一度は読んだ方がいい「野球本」である。

▽意中の球団はなし

高畠氏はプロ野球を離れた後、高校教師になるため、通信教育で社会科の教員免許を取得。福岡県の高校で教壇に立ち、同時に野球部を指導して甲子園を目指したが、道半ばで病に倒れた。東浜投手はプロ志望ながら「社会科の教員免許は取る」と決めていて、母校へ教育実習に行くことになっている。高畠氏の生き方にも、きっと興味を持つと思った。

運命の日はまもなくやって来る。「大学に入った時からプロ野球でやりたいと思っていた。もう一段階上の世界でやれると思うとうれしい」と話す東浜投手は「意中の球団はない」と12球団指名OKを表明している。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。

ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆