いかにも城島健司らしい引退の弁だった。「キャッチャーができなければ野球はやれない」。9月28日の記者会見で、阪神が用意した広島戦での引退試合は「広島にはクライマックスの可能性が残っている。2軍戦でマスクをかぶらせてもらう」と話し29日に実現させた。また、1年残る契約による4億円ともいわれる年俸にはまったく未練を見せなかった。36歳ながら捕手という激務による故障が引退を決意させたのだが、誇り高い男の生き様なのかも知れない。そして同じように今季限りで引退表明したのがソフトバンクの小久保裕紀。この2人は新生ホークスの球団史を初めて飾る選手である。

▽球団の歴史と伝統

パ・リーグの各球団は経営母体を代えて今日に至っているが、ソフトバンク・ホークスの前身はダイエーであり、その前は野村克也氏や故・杉浦忠氏などそうそうたるメンバーを有した南海だった。例えば、2005年シーズンから参入した楽天に入団(移籍)し育った選手が惜しまれながら引退するのはこれからだろうが、そうした選手をいかに多く出すかが球団の歴史と伝統となり、ファンに愛される球団につながる。ともにダイエーでプロ野球をスタートした小久保、城島のことを書いたのは、そんな思いからで、この2人の野球人生が決して平たんな道のりではなかったことも興味を覚えた理由だった。

▽巨人に無償トレード

小久保は1993年秋のドラフト1位で青学大から入団 。95年に本塁打王、97年に打点王を獲得した。しかし、ソフトバンクに身売りする1年前に突然巨人に無償トレードされた。大学の先輩である当時の中内正オーナーのファンを無視した独断専行で、球界のひんしゅくを買ったのは記憶に新しい。巨人で3年間プレーし、再びホークスに戻り選手生活をまっとうした。

城島は94年秋のドラフト会議で大分・別府大付高(現明豊高)からドラフト1位で入団したが、ダイエーの獲得をめぐってプロ、アマ球界が大騒ぎとなった。城島が駒大に進学を決めていたのを、当時の根本陸夫監督が強行指名したからだ。“寝業師・根本"に非難が手中した。ダイエーは駒大の河原純一投手を1位指名する予定で順調に逆指名を得るかに思えたが、土壇場で巨人に奪われた。そこで、急きょ城島獲得に舵を切ったのだが、ここでのポイントは根本監督が駒大を抑えきったことだった。当時の駒大は東都大学リーグの強豪で多くの選手をプロに送り込んでいて、プロ球団は一目も二目も置く存在だった。他球団は城島争奪であらためて根本氏の剛腕ぶりを実感させられたことだろう。

▽新しいタイプの捕手

ダイエーは94年オフに、根本監督自らが動いて王貞治監督の招へいに成功していた。「東の長嶋監督(巨人)、西の王監督」と球界の両至宝による対決実現へファンの夢をふくらませることで、ダイエーの存在感を内外に見せつけた。両雄は2000年の日本シリーズで対戦、巨人が優勝した。

巨人に主砲の秋山幸二をFAで持っていかれるのを寸前で阻止し、石毛宏典、工藤公康らに将来有望な城島を加える戦力補強で、王監督へのバックアップとしたのだ。城島が頭角を現すのは3年目から。従来の「女房役」とは違う、投手をぐいぐいと引っ張る新しいタイプの強肩強打の捕手が誕生。王監督の2度の日本一に小久保とともに大きく貢献した。

城島らしいのが、日本人初の捕手として2006年から大リーグのマリナーズに入団したことだろう。ポジション柄、言葉が通じないのは大きなハンディと思われたが、4年間プレーし、同僚だったイチローをして「天才的な選手」と言わしめた。困難な状況になればなるほど、チャレンジ精神が発揮される強烈な個性の持ち主である。10年から阪神に入団していた。

▽改革への積極姿勢はどこへ

2005年から球団経営に乗り出したソフトバンクは昨年、秋山監督で初の日本一となった。杉内俊哉、ホールトンの左右エースが巨人に移籍して戦力の大幅ダウンとなったが、クライマックスシリーズ(CS)進出可能な位置にいる。

ただ、最近のソフトバンクを見ていると、球団の姿勢に物足りなさを感じる。球団を持った当初は球団独自で大リーグを視察したり、日本球界の改革に積極的だった。孫正義オーナーの考えだと思うが、ここへ来て球界全体の底上げなどへの意欲がなくなっているように感じる。先細りが危惧される球界は「運命共同体」として生きて行く手が有効だと思う。楽天球団の積極的な動きとは対照的である。

「人気策は各球団独自で」という巨人を中心とした球界の古い体質にはね返されたのだろうか。それとも球団はソフトバンクという親会社の宣伝媒体で十分と考えたのだろうか。小久保、城島両選手の引退を通して、ふとそんなことを考えた。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。

ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆