ロンドン五輪が開幕する前の7月半ば、堺市のサッカー・ナショナルトレーニングセンターで4年に1度のフライングディスクの世界選手権が開かれ、大柄な欧米人や陽気な南米、アフリカ系の選手たちで施設があふれ返った。日本で開かれるのは1992年の宇都宮大会以来20年ぶり。全種目で奮闘した日本勢の中で、7人制種目アルティメットの女子チームが決勝に進出した。アルティメットはボールをディスクに持ち替えたアメリカンフットボールのような種目だ。記者の同僚に経験者もいてなじみはあったが、観戦するのは初めてだった。20年ぶりの優勝を懸けて、世界ランキング1位の米国に挑む一戦に幸運にも立ち会うことができた。

試合は素人目にも実力伯仲が分かる、壮絶なシーソーゲームだった。高く浮かしたパスを長身を生かして制し、ガンガン前進する米国。日本は辛抱強く、正確にディスクをつないで相手の隙を生み出す戦法で食い下がった。4―7とリードされたが、平井絵理主将の派手なダイビングキャッチが決まって勢いづき、4連続ポイントで逆転した。真昼の太陽がぐんぐん気温を上げていく中、豊富な運動量とミスの少なさを保って徐々に引き離し、17―13で決着。ウイニングパスをつかんだ選手にメンバーが駆け寄り、輪になって歓喜した。森友紀選手兼監督は「予選も全米選手権も全部ビデオを見てデータを取って分析した。前半のゾーン守備が効きましたね」としてやったりの顔。人気選手の猪俣紗奈子選手は「4年前の決勝で米国に負けた悔しさでずっとやってきた」と号泣した。

協会関係者に聞くと、フライングディスクの世界連盟には約80カ国が加盟・準加盟。早ければ2020年五輪での採用を目指しており、競技国・地域や大会数の増加が急務となっている。試行段階を含め中学や高校の授業への採り入れが始まるなど普及が進みつつある日本でも、今回優勝した女子チームは大学生を除けば全員がOL。平日の勤務をこなしながら土日に集まって練習する。実業団チームでもないため、支援は潤沢とはいえない。

表彰式で金メダルを首に下げた日本女子。グラウンド隅に集まって輪をつくると、突然アカペラで歌い始めた。「僕らの情熱はどうしたって 悔しさから生まれるんだ」―。曲はFUNKY MONKEY BABYSの『ランウェイ☆ビート』。歌詞のほとんどは替え歌だった。一人一人が競技に懸ける思いを込めて持ち寄った言葉を森選手兼監督が編集し、優勝時に歌うために練習を重ねてきたのだという。つらい合宿を乗り越えてきたこと、(決勝予定日の)7月14日は自分たちが世界の頂点に立つ日であること、競技を続けることを支えてくれた家族や仲間への感謝が詰まっていた。「僕らの運命はいつだって 僕らで切り拓くんだ」―。原曲と同じく2番もあったが、最後の方は聞き取りにくかった。ほぼ全員が、顔をくしゃくしゃにして泣いていた。

勉強不足のために根本的なことから教えてもらったこと、取材に来たがっていた先輩記者がロンドンに行ってしまったことを詫びると平井選手は「ロンドンよりいいものが見られたでしょ」と笑顔で返してくれた。「今までは米国が絶対王者だったけど、日本がアルティメットを引っ張っていきたい。今日はその第一歩…どころか二歩も三歩も進んじゃった感じです」。心底からのうれしさがあふれ出ていた。

取材に来ていた記者は1人だけだった。そこに華やかなセレモニーはなくても、手作りの優勝ソングは雄弁だった。女王の涙が、心にぐっと刻まれた。

『フライングディスク』 円盤状のディスク(通称フリスビー)を用いた競技。1チーム7人で競う「アルティメット」や5人制の「ガッツ」など世界フライングディスク連盟が公認するだけで10種目ある。非五輪種目の総合大会「ワールドゲームズ」で男女混合チームによるアルティメットや、18ホールの合計スロー数で争う「ディスクゴルフ」が採用されている。アルティメットは縦100メートル(横37メートル)のフィールドの18メートル内側にあるゴールラインを超えたパスをキャッチすると1点。時間制や17点先取のポイント制などで勝敗を決する。

小林陽彦(こばやし・はるひこ)1987年生まれ。神奈川県出身。2009年に共同通信に入社し、大阪運動部でプロ野球オリックス、11年からはサッカーG大阪などを担当。