2014年ワールドカップ(W杯)ブラジル大会出場を目指す日本が11日、埼玉スタジアムにイラクを迎えたアジア最終予選は、日本が1―0で勝った。ホームアンドアウェーで実施される全8試合のうち前半4試合を終えたが、イラク戦は日本が負けという結果を受け入れなければならない状況になっていてもおかしくない内容だった。サッカーというゲームはそういうものなのだろうが、日本の勝利の陰には、間違いなく運があったといえるだろう。

シュートはイラクの6本に対して日本は13本。ボール保持率を示すポゼッションも、イラクの35・7%に対して日本は64・3%。公式記録だけを見れば、日本が圧倒した内容に思える。ところが実情は違った。

真剣勝負での1点の持つ重み。特に先制点というところにポイントを絞ると、かなり危うい場面があった。開始4分の右CKからのI・アハメドのニアポスト際から放ったヘディングシュート。21分の左CKからファーポスト際でフリーとなったフンマディの左足シュート。とものGK川島永嗣のファインセーブ、長友佑都のカバーで失点こそ免れたが、限りなくゴールになる可能性が高い、いわゆる決定的なピンチだった。この2本ともが日本の先制点の前にあったことを考えれば、もしどちらか一本でも決まっていれば、日本はかなり苦しい戦いを強いられたに違いない。

セットプレーにおけるマークの甘さ。日本は、相手に自由にシュートを打たせないという鉄則、たとえ自分がボールに触れなくても相手に体をぶつけてミスを誘うという意識に欠けていた。そこには「寄せ」の速さに関しては右に出るもののいないDF今野泰幸の出場停止も影響したのだろう。そしてイラクには素晴らしいキックを持つ選手がいた。FKを務めた9番のY・アハメドだ。彼の右足はこの日の日本にとっての最大の脅威だった。41分にカウンターから技巧的な右足のカーブをかけたシュート。GK川島がなんとか弾き出したが、正面に立ってシュートコースを切っているはずの駒野友一の存在を無にする孤を描く軌道のキックは、日本の選手には見られない類のもの。ボール一個分外側にいっていればおそらくネットを揺らしていただろう。

戦前は「日本を知り尽くしているジーコが率いる」ということで、メディアは大々的に危機感をあおった。そのような中で個人的には「ジーコがプレーするわけじゃないから」とタカを括っていた。そこには2006年W杯ドイツ大会の指導者としてのジーコのイメージがあったからだろう。だが、ジーコは監督としても確実に経験と実績を積み重ねていたのだと、試合が終わってから思い知らされた。「監督として過小評価していました。ごめんなさい、ジーコ」というところだ。

日本の心臓である2ボランチを徹底的につぶし、キーとなる選手にはマンマークつける。本田圭佑以外は、フィジカルで優れているとはいえない日本対策としては、自由にボールを持たせないということは、考えうる戦略のなかではかなり有効だった。さらにA代表デビューという選手が多数いる、新チームを先発させる奇策。ロンドン五輪こそ出場していないが平均年齢22・9歳といえば、五輪世代。その若いチームが、1点を失ったとはいえゲームを終盤まで引っ張った。そして、会見で「コンディションに問題があった」と語ってはいたが、終盤でエースであるユニス、ナシャト、カラルの本来のレギュラーであるアタッカーを次々と投入。その策略にはザッケローニというイタリア人監督の気質と日本を知り尽くした、ジーコの深い洞察力があったのだろう。

現役時代、ウディネーゼでも活躍したジーコは、イタリア人のサッカー哲学を熟知していたはずだ。そしてザッケローニはイタリア人。セリエAでは攻撃的なサッカーを信奉してきたとはいえ、カルチョの国に根差すメンタリティはザッケローニとて同じだ。「1点を奪ったら守り切る」がイタリアの基本。案の定、この試合もザッケローニは終盤、アタッカーの清武弘嗣に代わって細貝萌、さらにロスタイムには主審の笛が鳴り投入できなかったが、高橋秀人を投入して守備固めを図ろうとした。だが、ジーコは日本代表監督時代から常々「日本は1点を守り切るメンタリティに欠ける」と話していた。勝っていても終盤にバタつく日本の欠点。イタリア人の哲学と、日本人の自らの精神を追い込むギャップ。その隙間につけ込む、理にかなった戦略だった。

結果的に勝負を分けたのは、両監督が持つ手駒の質と運。さらにレフェリーだった。オーストラリア戦では、ひどいレフェリーに当たったものだが、後半36分にユニスのヘディングシュートを吉田麻也がハンドで止めた明らかなPKを見逃してくれたシンガポール人主審は、12番目の日本代表だった。

少なくともこの試合だけに限れば、監督としての采配はジーコの方が上。そう感じたのは僕だけではないはずだ。試合後、握手を待つジーコに気付かなかったザッケローニは、それほど周りを見る余裕がなかったのだろう。それでも日本は勝った。勝ち点10の日本に対し、この日、オーストラリアを退けた2位ヨルダンとの勝ち点差は6。得失点が15も離れていることを考えると、日本が本大会出場を逃すことは、よほどのことがない限り考えられないだろう。ここからはザックジャパンも新たな方向性を打ち出していかなければならない。なぜなら、アジアの場合本大会は予選とはまったく違うチームコンセプトで臨まなければ勝負できないからだ。アジアという地域にいる以上、常につきまとう二面性。一つのチームコンセプトで地域予選から本大会まで戦える、欧州や南米の国々がうらやましい。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている