たしか2001年のマカオGPからの帰りの飛行機機内。たまたま隣に座ったF3チーム関係者と、すでにジョーダンでのF1デビューが決まっていた佐藤琢磨について軽く話した後「F1で戦えそうな未来の日本人ドライバーはいますか?」という僕の問いに「まだね、カート走ってる子どもだけど、可夢偉ってのが楽しみですよ」とその関係者は答えた。それが、小林可夢偉の存在を初めて知った時のことだ。

次に可夢偉を強く意識したのは2006年、とあるTMG関係者との単独インタビューを終えて席を離れるとき、逆に質問を受けた。「3人のTDP(若手育成システム)ドライバーをどう思いますか?」と。その答えとして、「中嶋一貴は現代のテクノロジーが先行しているF1においては、頭も良くいちばんフィットするタイプに見える。平手晃平は良いドライバーだけど強い何かが感じられない。小林可夢偉は底が見えない、大化けするなら彼かもしれない」と答えると、その関係者はニヤリと笑った。

そして2012年、唯一の日本人ドライバーとしてF1を戦っているのは小林可夢偉だ。ベルギーGPでは、日本人ドライバーとして2004年の佐藤琢磨以来となる、予選2番手を獲得し、8年ぶりに日本語が公式テレビで流れた。だが、レースはアクシデントに巻き込まれ、イタリアGPではチームメートのセルジオ・ペレスが2位表彰台を獲得したのに対して9位と、可夢偉の状況は厳しくなったかに見える。

しかし、実は現在の可夢偉は大きなチャンスに恵まれている。どれだけ才能に溢れていてもF1シートを獲得できなかったドライバーは多数いる。強い運や豊富な資金、そして社会情勢などの後押しがなければ、ステップアップできないのが現代のF1だからだ。さらに表彰台を獲得する可能性を持つマシンを手にするチャンスとなると、限りなく小さい。その点、今季のザウバーのマシンは間違いなく優勝も狙える速さを持つ。

裕福な家庭しかチャンスがないモータースポーツの世界で、TDPというシステムに出会えた幸運、トヨタF1撤退時にペーター・ザウバー代表の目に止まった幸運、そして今季最高レベルのマシンを手にした幸運。もちろん、ドライバーとしての才能はパドック関係者の誰もが太鼓判を押す。ワクワクドキドキこそすれ、悲観する状況でないことだけは間違いない。(モータージャーナリスト・田口浩次)