歴史に残る強いチームが出来あがっていく。ロンドン五輪で、メキシコ大会以来、44年ぶりのベスト4に勝ち進んだ五輪男子日本代表の戦いぶりは、その過程を早送りで見ている感じだ。7月11日の東京・国立競技場で、ロスタイムに格下のニュージーランドにゴールを許し、引き分けた。あの時点で、日本がロンドン五輪でのメダル争いに絡んでくると思っていた人は、ほとんどいなかったのではないだろうか。英国入りして約1カ月弱でベラルーシ、メキシコとの親善試合も含めて6試合をこなした。試合ごとに成長し、誰もが「このチームは強い」と思っているに違いない。

関塚ジャパンからは、単独チームのような一体感が伝わってくる。4年前の北京五輪では本田圭佑を筆頭に「自分をアピールする」という意識が強く、チームとしての結束力は低かった。今回は、個の能力としては北京に劣らないタレントが揃っているにも関わらず、それが個人プレーに走ることはなく、集団のなかのタスクを確実に遂行。そのなかで自分の個性を十分に発揮している。

相手にボールを回されていても、いまの日本はまったく危うさを感じさせない。今大会の出場チームのなかで唯一の無失点。4試合、360分間で、まだゴールを許していないという事実は、3試合で7失点を喫して惨敗した5月のトゥーロン国際大会を考えれば、いかにこのチームが急速な成長を遂げているかが分かる。

GK権田修一を含め、ゴール前を固める吉田麻也、鈴木大輔の2センターバックは、高さと強さを持つ。さらに徳永愁平、酒井宏樹の両サイドバックは守備面だけでなく、攻撃にも思い切りの良さを見せる。そしてチームの安定の基盤となっている2人のボランチ。精度の高いキックで攻撃の起点になっている扇原貴宏と山口螢のセレッソ大阪コンビ。特に山口は派手さこそないが、相手ボールホルダーへの信じられない寄せの速さで、守備時の時間を稼げる仕事人としてチーム躍進のキープレーヤーとなっている。さらにその前には、これまでのサッカーの常識を覆す献身的な4人が並んでいる。

今回の日本の展開するサッカーを見て、世界中の人々は大きな衝撃を受けているに違いない。1トップも含め、90分間を走り抜きボールを奪い切る日本のアタック陣。その守備戦術は、1989、90年とUEFAチャンピオンズカップ(チャンピオンズリーグの前身)を連覇したACミランの驚きに近いものがあるかもしれない。智将アリーゴ・サッキが生み出した、いわゆる“ゾーンプレス"。高い位置でプレッシングを掛けてボールを奪う守備戦術は、その後のサッカーの潮流に大きな影響を与えた。日本の守備戦術は、そのゾーンプレスの役割を1トップにまで拡大させ、さらに高度化させたもの。おそらく大会後にFIFAが作成するテクニカルリポートでは、今回の日本の戦術は称賛をもって大きな比重で取り上げられるはずだ。

一人でも手を抜けば、この戦術は成功しないだろう。サボる選手がいれば、周りの選手の走りは無駄になり体力を消耗する。その意味で、几帳面で協調性のある日本人ならではの戦術といえる。なかでも清武弘嗣の、攻守に渡る今大会でのパフォーマンスレベルの高さは、世界中の誰もが認めるところだろう。視野が広く、高度なテクニックとスキルを持っている。びっくりするほどうまい清武だが、ここまで守備がすごいとは正直思っていなかった。でも考えてみれば、攻撃のすごい選手というのは守備もうまい。幼い頃から自分が攻撃するためには、相手からボールを奪わなければならないからだ。それはなでしこの沢穂希とも共通する要素だろう。

4日に行われた準々決勝のエジプト戦で永井謙佑がみせた、前半14分の先制点につながるボール奪取。清武の相手ボールへのアタックは一度では終わらなかった。最初はアブトレカ、次にラマダン。右サイドでボールを奪うと、永井のスピードを計算したアーリークロスを送った。猟犬のようなしつこさと、ファンタジスタのひらめきが瞬時にして切り替わった。さらに前半41分に斎藤学が倒されてサードを退場に追い込んだ場面。これも清武がラマダンからボールを奪い取り、東慶悟に送った縦パスから生まれた。

他の選手とは一線を画す、特別な攻撃感覚を持っている上に、労を惜しまず忠実に守備をこなす。スタイルこそ違え、この日、試合の行われたオールドトラフォードのエース、ウェイン・ルーニーと清武の姿はある意味でダブっていた。そして、おそらくこの試合を見ていたであろうマンチェスター・ユナイテッドの名将アレックス・ファーガソンも「日本には、香川真司以外にもすごい選手がいる」と思ったに違いない。

大会が終われば、多くの海外のクラブから獲得の打診が来る可能性の高い永井。そのけがの様子が気になったが、「モモカン」による退場らしい。サッカーの世界でしか通用しない用語だが、モモカンとは相手の膝が太もも入った打撲。準決勝のメキシコ戦の出場は問題がないようだ。

勝っても負けても、残るはあと2試合。どうせなら決勝でブラジルを破りたい。1996年のアトランタ五輪。日本はブラジルを1-0で下し「マイアミの奇跡」と言われた。しかし、今回のチームがウェンブリーでブラジルを下したとしても、決して「奇跡」とは言われないだろう。それだけ日本は、内容の濃い戦い方をしている。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている。