ホンジュラスが、どこまでも欲深いチームだったら、試合はもっと難しいものになっていただろう。1日に行われた、ロンドン五輪サッカー男子1次リーグ最終戦。過去にワールドカップ(W杯)や五輪で、一度もグループリーグ突破を果たしたことのない中米の国は、日本を相手に思いのほか淡泊だった。ラテンのマイペースさといったらそれまでだが、日本に勝って1位通過をしようというよりも、「勝ち点1でグループ2位を確保しようよ」というコンセプト。普通のサッカーを展開してくれたことで、先発を5人入れ替えて試合に臨んだ日本は、大きな混乱をきたすこともなく、に0-0で引き分け、グループDを首位で突破した。

日本は、2試合を終えた時点で決勝トーナメント進出を決めているものの、緊張感のある試合だった。すでにブラジルは、最終戦でニュージーランドを3-0で下し3戦全勝。グループCの首位を決めている。日本対ホンジュラスは、決勝トーナメント1回戦で王国ブラジルとの対戦相手を決める試合でもあったからだ。

評判倒れだったスペインとは違い、この大会に入ってからのブラジルは、間違いなく優勝候補筆頭の実力を発揮している。守備面で多少の危うさはあるものの、ネイマール、パト、フッキなどのビッグネームを揃えたアタック陣は、原則23歳以下の五輪の枠を大きく超え、W杯レベル。3試合で9ゴールを叩き出している超攻撃型チームとの対戦は、なんとしても避けたいところだった。

引き分け以上で日本の首位突破は決まるものの、その立場は危ういもの。1点差であっても負ければ、その場で首位をホンジュラスに明け渡す。日本の勝ち点が6から伸びず、逆にホンジュラスの勝ち点が7になることが、メダルを大きく遠のかせる要因となるのだ。

立ち上がりこそ、メンバーが大幅に変わったということで、中盤での危ないボールの失い方からショートカウンターを食らった。しかし、時間の経過とともにゲームが落ち着くことで、負ける要素はかなり低くなった。

5月のトゥーロン国際大会の時点で、日本の最大の弱点は疑いなく守備面だった。ところが、いつの間にか弱点だったはずの守備は、このチームの最大のストロングポイントとなっていた。3試合連続の完封。これは男女を問わず、過去に世界大会に出場した各年代の日本代表を見渡しても、最長の無失点記録だ。

GK権田修一は、この試合も再三のピンチをしのいだ。特に前半42分のフィゲロアのFKは、相手にボールが当たり直前にコースが変わった対応の難しいシュートだった。それでも無難にさばいてしまうのは、フル代表も経験しているポテンシャルの高さだろう。優れたGKの存在は、トーナメントを勝ち進む上で欠かせない要素だ。

今回の五輪に出場しているすべてのチームを見たわけではないので、断言はできないが、今回の日本は守備戦術という面からすれば、おそらくトップレベルにあるのではないだろうか。前線から最終ラインまでが連携して、アグレッシブにボールを奪いに行く。通常、前線の選手の守備というのは、パスコースを限定して、ボールを奪う後ろの選手の手助けをする程度なのだが、日本の前線の選手は自分でボールを奪い切る守備をする。それも90分間を通して休みなく。前線の選手が誰一人サボることなくハードワークをすれば、最終ラインの選手は精神的にも体力的にも、かなり余裕を持ってプレーできる。

「ゴール前にへばりつくのではなく、前に出て積極的に守備をやっていきたい」。試合後にキャプテンの吉田麻也が語っていたが、決勝トーナメントを勝ち上がるには今大会で日本が見せている守備戦術を継続することが不可欠だろう。幸いこのチームは前線にボールを確実に収めることのできる選手が揃っている。さらにセンターバックの吉田にしても鈴木大輔にしても、相手にプレッシャーを掛けられても、正確にボールをつなぐフィード力を身につけている。奪ったボールを確実につなげるということは、ディフェンスラインを押し上げる時間を作り出せるということ。最終ラインが高く保たれていれば、相手の攻撃陣からすればそれだけ日本ゴールが遠いわけだから、失点の可能性は少なくなる。

千載一遇のチャンスなんて、そうそう巡ってくるものではない。ここは準々決勝でエジプトに勝って、さらにその上を目指すしかない。トーナメントの組み合わせを見れば、メダルも決して不可能なことではない。そろそろ44年前のメキシコ五輪のオジサンたちの自慢話も聞き飽きた。サッカーの母国で作られる、21世紀の新しい五輪の成功物語。子どもたちは名前も知らないオジサンの話を聞くよりも、自分たちの知っている選手たちのヒーロー物語を楽しみにしているはずだ。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている