短い夏休みを挟んで後半戦が再開したモトGPの第11戦インディアナポリスGPでは、大きな怪我を伴う転倒者が続出した。インディアナポリスモータースピードウェイは、他のサーキットと比較して滑りやすい路面特性を持つものの、特にここだけが統計的に飛び抜けて転倒数が多いわけではない。また、当地の過去のレースと比べても、今年のレースに限って大きな数字を記録したわけでもない。だが、連続して派手な転倒が発生すると、否応なく強い印象も与えてしまう。

モトGPクラス金曜午前の練習走行では、エクトル・バルベラ(プラマックレーシング/ドゥカティ)が最終コーナーで転倒。第5、6、8胸椎を圧迫骨折した。土曜午後の予選では開始早々にケーシー・ストーナー(レプソル・ホンダ)が転倒。コース上に散らばったバイクの一部を片付けるために、赤旗が提示されてセッションは一時中断された。再開後、今度は予選終了間際にベン・スピース(ヤマハ・ファクトリー・レーシング)とニッキー・ヘイデン(ドゥカティ)が連続して転倒し、再び赤旗中断。彼ら3名が転倒したのは、最終セクションの13~14コーナーというまったく同じ場所だった。転倒のしかたも、共通している。旋回動作中に滑っていたタイヤが突然グリップ力を回復し、その際にバイクのサスペンション(バネ)の反動でライダーが一本背負いのように振り飛ばされる<ハイサイド>という現象だ。大きく投げ出されて宙を舞うため、着地時には大きな衝撃を伴う。診断の結果、ストーナーは右足首の靱帯断裂と骨折が判明。スピースは右肩靱帯を傷め、ヘイデンは脳震盪と右手首骨折という診断がくだった。

ヘイデンは土曜の夕刻に医師から翌日のレース参加が禁止されたが、スピースとストーナーは決勝レースに出場した。特にストーナーの場合は、前日深夜までインディアナポリス市内の病院で診察と経過観察を行い、日曜には松葉杖でサーキットへ到着。午前のウォームアップ走行で様子を見た結果、ようやく最終的に医師から出走OKの許可がおりた。だが、肉体的には、レースに臨むにあたり60ミリグラムの沈痛消炎剤を注射し、経口薬も服用するという凄絶な状態だった。

しかし、このような体調でも、ストーナーは驚異的な走りを披露した。1周目で7番手と出遅れ、優勝したチームメイトのダニ・ペドロサからは大きく引き離されたものの、少しずつ順位を回復。中盤周回には3番手にまで浮上した。終盤数周で前を奪われて惜しくも表彰台を逃したものの、全28周のレースを4位でフィニッシュ。45分の<死闘>を終えてピットに戻ってくるとマシンの上にうつぶせになり、しばらくは動けない状態だった。レース後の恒例囲み会見は中止したが、チームの公式資料で「体力を使い果たした。最後に表彰台を明け渡したのは残念だが、全力は尽くしたし、多少のポイントも獲得できた」とコメントを発表した。

今回の事例のように、ときにトップアスリートたちは、常人ならばおよそ不可能なほどの強い精神力で、不可能事を可能にしてしまうことがある。そして、彼らのそのような姿を目の当たりにしたときにこそ、人々はスポーツの魅力の虜になるのだろう。(モータージャーナリスト・西村章)