2012年はモトGPの有力選手が揃って契約更新の節目を迎えるシーズンで、彼らの動向には開幕前から大きな注目が集まっていた。5月には、2011年王者のケーシー・ストーナーが今季限りでの引退を発表。その1カ月後に、現在ランキング首位のホルヘ・ロレンソがヤマハとの2年契約更新を発表した。現在は、スーパースターのバレンティーノ・ロッシや毎年総合優勝を争うダニ・ペドロサらの去就に注目が集まっている。だが、もうひとり、今回の第7戦オランダGPで大きな節目を迎えた選手がいる。ドゥカティのファクトリーチームで4年目のシーズンを過ごしているニッキー・ヘイデンだ。

ケンタッキー州のレース一家に育ったヘイデンは、2002年に弱冠21歳でAMA(全米選手権)王座を獲得。翌2003年にモトGPのレプソル・ホンダ・チームに抜擢され、鳴り物入りで世界デビューを果たした。当時のチームメートはバレンティーノ・ロッシ。ヘイデンは、ロッシがヤマハへ去った後のホンダファクトリーを支え、2006年にそのロッシとチャンピオン争いを繰り広げて最終戦で年間総合優勝を決定した。2009年にドゥカティへ移籍。昨年からロッシが再びチームメートとなった。

この数年はロッシ、ロレンソ、ストーナー、ペドロサらの陰に隠れがちだったが、人当たりのよい爽やかな性格で多くの人々に好かれている。彼の契約には、第7戦オランダGPまでにドゥカティからのオファーがあれば来季のシートを保障されるというオプションが付帯されていたが、今に至るもファクトリー側からの申し出がないことを、ヘイデンはレースウィーク中に明かした。

「ドゥカティを信頼しているし、いつか勝てると思っているからここまで努力してきた。皆が全力でマシン開発に取り組んでいる。勝てるマシンができあがった時に、自分がそこにいないのはイヤだけれど……、(ドゥカティにとって)バレンティーノが最優先であることもまた、分かってはいるさ」と複雑な笑みを浮かべながら、現在の心境を正直に述べた。しかし、ドゥカティが執心するロッシはというと、今年限りでチームを去る可能性が濃厚だともいわれている。またその一方で、頭角を現しているヤマハ系サテライトチームのカル・クラッチローにドゥカティが接触していることもすでに明らかになっている。彼等のそのような水面下の動きもヘイデンは当然知っているはずで、心中は決して穏やかではないだろう。

「(スーパーバイク世界選手権のチームから)話はいくつかあるけれど、自分としてはモトGPに残りたいんだ」ともヘイデンは言う。今季の成績は、7戦中4戦でヘイデンがロッシよりも上位フィニッシュを果たしており、獲得点数でもふたりはほぼ同一で並んでいる。メーテルリンクの童話で、兄妹の探し求めて歩いた「青い鳥」がじつは身近な鳥籠の中にいたように、ドゥカティの探し求める「幸せの象徴」は、もっとも手近なピットボックスの中にいるのかもしれない。(モータージャーナリスト・西村章)