日本プロ野球選手会が、来年3月に開催される第3回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)への不参加を表明した。7月20日に、新井貴浩選手会長(阪神)が発表したもので、WBCを主催する大リーグ機構(MLB)と大リーグ選手会に対して、1年前から収益配分の不均衡の是正を求めていたが、その改善策が提示されないため、強行手段に踏み切った。

▽日本マネーが財政支える

WBCはご存じの通り日本が2連覇している大会だが、2006年の第1回大会当時から、いろいろな問題点が指摘されていた。もともと大リーグの世界戦略で企画され、その収益が大リーグ側に独占されるような構造があった。日本が勝ったことで日本マネーがWBCの財政を大きく支えるようになってきたこともあって、日本野球機構(NPB)と選手会は不均衡の是正を要求していた。今回、選手会は日本代表を支援する企業のスポンサー料を日本側に譲渡するよう求めているのだ。今のところ、米側は「NPBは出場すると言った。だから今回の問題は日本国内の問題」と突き放す姿勢だが、もし日本が不出場となれば、その痛手は大きい。今後、米側が譲歩してくる可能性はある。

▽太い人脈なし?

そうした「交渉の余地」にファンをはじめとして期待するのだが、図らずもタフな相手を向こうにまわして日本側の力量が試されることになった。心配はある。NPBに大リーグに太い人脈はあるのだろうか。今は亡き、パンチョこと元パ・リーグの伊東一雄氏のように大リーグを隅々まで知り尽くし、なお顔が利く日米の架け橋的人物がいない。駐米大使だったNPBの加藤良三コミッショナーは大リーグとの太いパイプ役を自認しているが、今回、それが生かされているようには思えない。

それどころか、加藤コミッショナーは「選手にはよく考えてもらいたい」と、選手会が金銭闘争だけを目指しているのではと、くぎを刺しているが、私にはそうは映らない。新井会長は「5年後、10年後の選手のための苦渋の決断」と言っている。さらに気になるのが、NPBの国際関係委員長として米側と交渉してきた島田利正日本ハム球団代表が「もしかしたら(選手会に)説明不足があったかもしれない」と言っているからだ。「選手会を下に見る」野球界幹部の体質を表していると思う。今回の選手会の行動は、こうしたNPBに業を煮やした末のものだと受け取れないこともない。

▽主張する選手会に変ぼう

プロ野球選手会はいろいろな場面で「発信」し出している。選手会は労働組合と社団法人の二つの顔があるが、選手の待遇改善は労組として、野球界の発展は社団法人として行動している。昨年の東日本大震災に対して公式戦開幕日をずらすという主張は多くのファンの共感を得た。2004年、近鉄球団の身売り問題から球界がセ、パ2リーグ制から1リーグ制へ大きく舵を切ろうとしたことに真っ向から反対し、史上初めてのストライキを打ったのは画期的だった。多くのファンが球界指導者に批判の矛先を向けたのは、記憶に新しい。

今回は、ファン離れや金持ち選手がさらに金目当てで動いている、というバッシングを受けるかもしれない。しかし、労組(初代委員長は中畑清DeNA監督)として27年、「自らが傷を負ってでも主張できる」集団になったといえよう。

手元に今年3月、東京ドームでの大リーグ開幕戦、アスレチックス―マリナーズの入場半券がある。主催者の項にMLBとともにMLB選手会とある。本国から遠く離れた地での試合開催など、選手会の協力なくしては、もはや成り立たないのである。

▽世界最強の労組

MLBと同選手会はそれこそ血みどろの戦いの歴史だった。1994年シーズン途中からの200日以上のストライキを敢行。ワールドシリーズを中止に追い込んだ「世界最強の労組」と言われるMLB選手会は選手年金や年俸調停などの権利を次々と獲得。いまや球団の経理報告書を提示させ、コミッショナー事務局と球団には、その権利の最大限のビジネス化を義務付けている。こうしたことが今回のWBC騒動の根底にあるのだが、その基礎をつくったのが鉄鋼労連出身の剛腕マービン・ミラー氏だった。

ミラー元委員長とは比べようもないが、日本プロ野球選手会を取り仕切っているのが松原徹事務局長である。かつてよく取材したが、松原氏は事務局入りして20年以上になる。選手会の置かれた立場を考え、じっくり運営してきたが、選手たちの意識向上に伴い「もの言う選手会」に成長した。

▽変わりつつあるプロ野球

プロ野球人気が心配される中、もしWBC不出場となれば痛手をこうむる。ピンチになれば、どう打開策を講じていくか。先の大リーグの長期ストでファンが離れた窮状にMLBは、選手会と手を携え人気を取り戻した例がある。

まあ、それを持ち出すのは早計だろう。今回、加藤コミッショナーが再任されたが、一部に反対意見があった。今までにあまりないことだ。プロ野球界も変わりつつあるということだろう。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。

ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆