日本人大リーガーの中からただ一人、2012年オールスター戦に選ばれたダルビッシュ有(レンジャーズ)の満足そうな表情がテレビに映し出されていた。登板機会は訪れなかったが、スター選手が集う大舞台を心から楽しんでいたようだった。前半戦は16試合に登板して10勝5敗、1イニングでほぼ1個の三振を奪う内容も悪くない。期待通りの活躍といっていいだろう。

▽元大投手も「われわれの狙い通り」

レンジャーズのワシントン監督は「彼には意識の高さ、誇りや確固たるものがある」と評価し、通算最多の5714奪三振、ノーヒットノーラン7度というメジャー屈指の大投手だったノーラン・ライアン同球団社長も総額88億円をかけての獲得に「われわれの狙い通り」と胸をなで下ろしている。そしてダルビッシュが活躍できる理由として、異口同音に「適応力の高さ」を挙げている。

▽アジャストできるかどうか

何年前になるだろうか、マリナーズなどで9年間投げた長谷川滋利氏の講演で「日本人がメジャーで活躍できるかはアジャスト、つまり適応できるかどうかにかかる」と聞いたことがある。野球文化の違い、過酷なスケジュール、強烈な個性のチームメート、異文化での生活環境―などへの適応が求められる。いくら技術力があっても、アジャストできる力がなければ長続きできない、というのだ。

今日の日本人選手の大リーグ行きの先駆けとなった野茂英雄氏が12年間にわたって123勝109敗という「メジャーでの足跡」を残せたのも、適応力があったからだ。野茂氏とダルビッシュに共通点を見いだせるとしたら「結果を素直に受け入れる姿勢」ではないかと思っている。

かつてのダルビッシュが「大リーグは頭になかった」というのは本当だろう。東北高から日本ハムに入団した当初は未成年で喫煙する姿を写真に撮られてバッシングを受けたり、やや斜に構えたプロ生活のスタートだった。年々、結果が出るにつれて自らを「高み」に押し上げていった結果が大リーグ挑戦となったようで、自然体でやってきた結果である。人に迎合することがなく、私の中では江夏豊氏や堀内恒夫氏の姿がだぶって見える。

▽自らの意思表示

今春の大リーグキャンプでのダルビッシュは、自らが言う「メチャクチャな英語」でナインに溶け込んでいったのも、過剰なまでに膨れ上がった日本からの報道陣をできるだけ避けようとしていたのかもしれない。ダルビッシュは常に「周りはすごい選手ばかりだし、(僕は)そんなに注目される選手じゃないのに」と一歩引いていた。大リーグ入りした直後から「日本人記者との会見」を断固拒否し続けたイチローよりはソフトなやり方だが、その意思はよく表れている。

スポーツは結果が伴うものだから、それを受け入れるしかないのだが、選手によって「受け入れ方」はさまざまである。ダルビッシュが勝っても負けても淡々と結果を受け入れている様は、試合後の記者会見でも見てとれる。経験を積むことで少しずつ前進しようとしている。肩に力が入っていないのもいい。

▽タイプが違う沢村

対照的なのが巨人・沢村拓一投手だろう。彼は「結果を求め続けている」。これは中央大時代からそうで、ストイック(禁欲・克己的)なまでに自分を鍛え上げてきた。「僕はプロ入りするだけでなく、プロで活躍できる投手になりたい」と言い続けていたものだ。沢村はどちらかといえば、「完ぺき」を求めるあまり自分に満足できないタイプである。これはこれでさらなる「高み」へ行ける可能性を持っていて、決して悪いこととは思わない。ただ、最近の沢村は結果を求めるあまり、時に本来のピッチングスタイルを見失っているようにも見え、迷いが感じられる場合もある。持ち前の速球にもっと磨きをかけてはどうか。ベンチもこの新人王投手を「球界の宝」にと、もっと大きく育ててほしい。

▽到達点はもっと先?

速球派投手に多いようだが、「自分の納得がいくまで」投げ込みを止めない投手が結構いる。レッドソックスの松坂大輔投手が調整をめぐって悩んだり、江川卓投手が日本シリーズの最中に投げ込みをやって西武に勝てなかったことは、以前に紹介した。その点、高速スライダーを主武器に三振を奪うタイプのダルビッシュは投げ込むタイプとはすこし違うようだ。試合数の多い大リーグで長く投げられるかもしれない。

今季は20勝達成がうんぬんされるが、まだ25歳。多分、彼はもっと先を見ているようにも思える。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。

ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆