チーム全体の状況を把握するために、グラウンドを縦横無尽に走り回る姿。練習中に選手がけがしないように計らい、自らトンボを手にして整備をする様子。この人の人間性をひと言で表すのならば、いい意味で監督らしくない監督という言葉が適切だろう。今季から日本ハムを率いる栗山英樹監督のことだ。

監督業のみならず、コーチ経験すらもなかった氏の監督就任には、大半の人が首をかしげただろう。私自身、正直「何を考えているのか分からない人だな」というのが第一印象だった。

2番稲葉の起用など、説明を聞いてもよく分からない事態に陥った。後から振り返ってみれば栗山監督の型破りな考えに自分自身がついていけてなかっただけなのかもしれない。開幕戦から2番稲葉は3安打を放ち、栗山監督が期待した「攻撃的な2番」の役割を果たした。エースに成長してほしいという念を込めて開幕投手に斎藤を指名したことや、開幕から不振が続いた中田を「誰が監督になっても4番にする」主砲へと進化させるために外さないなど、起用に際してはその選手の人間性のみならず将来までを考える。

ひいき目に人を見ない。キャンプでは全員にチャンスを与えた。ナイター前の2軍戦視察は日常茶飯事だ。敗戦後の決まり文句は「負けたのは俺のせい」。舞台裏でも態度は変わらない。ある選手からしてみても「選手のせいにしない」。他の選手も「厳しいけど、いい人」と慕う。チーム事情を理解しようと熱心に対話を重ねる姿勢に、コーチ陣は尊敬のまなざしを送る。一人の人間がここまでチームに一体感をもたらすのか、と思えるほど今や51歳のリーダーの存在はチームにとって掛け替えのないものになっている。

日本ハムはメジャーに移籍したダルビッシュの抜けた穴が不安視された。昨季18勝を挙げた右腕がいなくなる対価が大きいことは誰の目にも明らかだった。その不安を開幕前までに感じさせなくなった立役者が栗山監督だった。キャンプ中から選手全員と会話を重ね、それぞれに発奮させるメッセージを送る。特にここ3年間勝ち星がなかった6年目左腕の吉川は、「四球を出してもいいから腕を振ってこい」と言われ復活を遂げた。

とにかく「確率」を求め、勝利を導き出す方法を考えるためには寝る間も惜しむ。監督就任が決まった時、巨人原監督から「寝たままだと、考えがまとまらない」と教えられた。だから深夜でも部屋の明かりをこうこうとともし、いすに座った状態で思考にふけるそうだ。広がる思考回路は、この秘訣が生んでいる。交流戦序盤に遊撃手スレッジを企てたことなどから、まだ“秘密兵器"を隠していると私は踏んでいる。その秘策に驚き、そして野球の面白さを痛感させられる場面が今後、幾度もあるだろう。ちなみに、睡眠時間は、ぐっすり寝たとしても5~6時間だという。最高で30時間寝たことがある私からしたら、考えられない。

試合前、お決まりの光景がある。報道陣を「元気がないねぇ」とちゃかし、直後に「よーし、絶対に勝つぞ」と自身を鼓舞しながら笑わせる。小さなことで周りを和ませ、自然と日本ハムに関わる人々の心もつかむ。人間味あふれる栗山監督の胴上げされる日が待ち遠しくてならない。

白石明之(しらいし・あきゆき)1987年生まれ。埼玉県出身。2010年共同通信入社。東京本社を経て、10年の12月から札幌支社勤務。主にプロ野球日本ハムを担当する。早大時代は野球部に所属した。