プロ野球も開幕してから3週間あまりが経過した。思い通りのスタートを切れた選手がいれば、そうじゃない人もいる。オープン戦で不調だった斎藤佑樹投手(日本ハム)は順調に勝ち星を重ね、好調のチームを支える。一方で強力との下馬評だった巨人打線はいまのところ期待外れに終わっている。本番で駄目ならば、まったく評価されない。明と暗がはっきり分かれる世界で輝きを保ち続けるために必要なものは何か。ソフトバンクの王貞治球団会長の言葉を聞きながら思った。

「練習は料理の仕込みと同じだよ。6時に開店しますからって、6時に行ってたら駄目ってことだよ」。選手たちが練習に励む姿を見つめながら、同会長は熱く語った。丹念に包丁を研ぎ、下味をつける。大観衆の声援を浴びてバット1本で喜ばせる。すべてはお客さまを満足させるため。プロ野球選手も料理人も舞台へ臨む姿勢は変わらない。思えば昨季ソフトバンクに移籍して、いきなり史上2人目の両リーグ首位打者となった内川聖一外野手も同会長から「練習では百二十パーセントで振れ」との指導を胸に快音を重ねた。

もう一つ印象に残った言葉がある。「特打、特守というけれど、それはその人にとって必要なことで、特別なことではないんだよ」と語った。我々、報道する側も猛練習といった類いのものにスポットを当てることが多い。ただしそれも同会長からみれば「普通のこと」。「荒川道場」で真剣を振る姿も、世界に誇る通算868本塁打の記録を残したからこそ脚光を浴びた。結果を残さなければ、プロセスを語られることはない。「報われない努力があるというならば、それはまだ努力と呼べない」との言葉にも説得力を感じる。

準備を怠っていては勝負の場に立つ資格もない。さらにはどれだけ準備をしても結果が悪ければ、言い訳はできない。どこまでも厳しく自分と向き合わなければ競争の社会では生き残れない。当たり前のことではあるが、本当に難しいことだ。失敗しても「自分なりに…」といった言葉で体裁を整えては成長というのは望めないのではないか。新たな旅立ちも多い春にあらためて、日々の精進の重要性を思い知った。

シーズン終盤に好結果を残す選手が、今後どれだけの準備をしていくか。しっかり見ていこうと考えたところに、王会長が私に投げ掛けた。「しっかり準備していますか」。うららかな陽気に誘われて緊張感が欠如していたのをお察しになったのだろう。何とも耳が痛くなったのは言うまでもない。

七野 嘉昭(しちの・よしあき)1984年生まれ、岐阜県各務原市出身。東京外大ではカンボジア語専攻。2008年入社。ボクシングなどの担当を経て2010年からプロ野球ソフトバンクを中心に取材。