3月末から4月にかけて国内では5試合の世界戦が組まれ、一時は史上最多9人が世界チャンピオンに名を連ねた百花繚乱の日本ボクシング界。その影で、1人のボクサーがひっそりと世界王座に挑んだ。元世界ミニマム級王者の高山勝成。3月30日、国際ボクシング連盟(IBF)同級王者のヌコシナチ・ジョイ(南アフリカ)に敵地で挑戦し、0―3の判定で敗れた。

日本での注目度が低かったのには訳があった。IBFとはプロボクシングの世界王座を認定する統括団体で、WBA、WBC、世界ボクシング機構(WBO)と並ぶ世界の主要4団体の一つ。ただ、日本ボクシングコミッション(JBC)は認可しておらず、基本的には日本人選手がIBFのリングに上がることはできない。高山が同タイトルに挑戦できたのは、JBCに引退届を提出し、国内でのライセンスを放棄しているためだ。

2009年にWBA同級王者のローマン・ゴンサレス(ニカラグア)に敗れた後、高山はグローブをおくことも一度は考えた。それでも「自分にはボクシングしかない」と踏みとどまった。新たに照準を定めたのが、日本人が誰も成し遂げていない主要4団体の世界王座制覇。かつてWBA暫定とWBCの両王座に就いた28歳の実力者にとって、挑戦心をかき立てられる目標は、それぐらいしかなかった。もちろん、JBCの管轄を離れてボクシングを続けることに風当たりも強い。試合中に事故が起きても、すべて自らの責任。練習場の確保もままならず、公園でシャドーボクシングを繰り返す日々もあったという。苦難を承知で、自ら「ワールド・チャレンジ」と名付けた挑戦に突き進んでいる。

WBAライトフライ級で13度の防衛を果たした具志堅用高氏がたたえられるように、防衛回数を重ねることが強さの証明とされてきた。ただ、物差しは近年、それだけにとどまらなくなってきた。6階級を制したマニー・パッキャオ(フィリピン)のような複数階級制覇や、王者同士が拳を合わせるビッグマッチにボクシングファンは熱狂する。その傾向に後押しされるように、JBCは昨年2月、WBAまたはWBCの世界王者が統一戦で対戦する場合に限り、IBF、WBOの世界戦を認める決定をした。頑なに認定を拒んできたJBCだが、風向きが変わりつつある。

かねてから話題だったWBAの八重樫東(大橋)とWBCの井岡一翔(井岡)によるミニマム級王座の統一戦が9日に発表された。「お互いが望んで、周囲が期待するのであれば…」という条件付きながらも、実は高山もこの試合の勝者との対戦に色気を見せていた。高山がIBF王座奪取を逃し、挑戦する立場にすら立てなかったが、もし実現していれば3団体の日本人王者による最強決定戦の様相を呈していた。ファンとしては、ぜひとも国内で見てみたい一戦だった。

鉄谷美知(てつや・よしとも)1977年生まれ。仙台市出身。2002年に共同通信入社。福岡支社、大分支局を経て07年に大阪支社運動部へ。ボクシング、サッカーなどを担当し、12年4月から運動部。