プロ野球は統一球導入から2年目のシーズンを迎えた。飛ばない球への対応は、今季も各球団の大きなテーマになるだろう。以前は強力打線を誇った巨人も例外ではない。2010年に4・94点だった1試合の平均得点が、昨季は3・27点に下がった。貧打からの脱却へ向け、原辰徳監督はミーティング改革を掲げている。その中心的役割を担うのが、今季入団した橋上秀樹・戦略コーチ。かつてヤクルトで選手として、楽天ではコーチとして、野村克也監督の下で研さんを積んだ「ID野球の門下生」だ。

07年から3年間、担当記者として楽天を取材した。「野球は確率のスポーツ」というのが「ID野球」の基本理念。ベンチの役割は、選手がより確率の高いプレーを選択できるように後押しすること。より具体的に言えば、合理的な判断をした上で逆の目が出た場合に、責任をベンチが取り、選手に押しつけないということである。実際には、野村監督は辛らつな「ぼやき」を連発していたのだが、ほとんどは「判断の是非」を問うものだった。正しい選択をして、裏目に出たら仕方ないという原則は崩していない。

プロ、アマを問わず、よく「見逃し三振は消極的だからよくない」といわれる。だが、前述の考え方を取れば、こうした批判は成り立たない。手が出ないのは予測が外れたからであって、消極的だからではないのだ。裏をかかれたときにあっさり凡退することを覚悟した上で、よりプレーの確率を上げるために、情報を集め、データを整理する。それが「ID野球」のアプローチだ。

具体的に状況を想定してみよう。1点を追う九回の攻撃で、マウンドには昨季セ・リーグMVPに輝いた中日の浅尾拓也投手。150キロの速球と鋭いフォークを武器とする。2死二塁と一打同点の好機をつくったが、1ボール2ストライクと追い込まれた。ここでどう対応するか。

仮に、この状況では70%の確率でフォークがくるというデータがあったとする。当然、まずフォークを頭に入れなければならない。低めのストライクを打ちにいくと、ボールになる球に手を出す可能性が高い。意識は高めに置くことになるだろう。そうすることで、浮いた球を捉える確率が上がる。一方で、低めの速球はなすすべなく見逃すしかない。それをベンチが許容できるかどうかが、一番重要な点だ。「消極的だ」と非難するようでは、抜けたフォークを打つことさえおぼつかなくなる。そもそも、見逃し三振を恐れて何にでも手を出すという姿勢が「積極的」というわけでもないだろう。

橋上戦略コーチも、そうした方法論を駆使してミーティングの改善に取り組むはずだ。巨人でプレーした経験のない “外様"だけに、意識改革を浸透させるには困難もあるかもしれないが、その手腕に期待したい。「あの見逃し三振は仕方ない」。首脳陣や選手から、そんな声が聞かれるようになれば、巨人打線復活が実現するのではないか。少々ひねくれた見方ではあるが、それを今季の楽しみの一つとしている。

児矢野雄介(こやの・ゆうすけ)2003年共同通信入社。高知支局を経て、05年から運動部で主にプロ野球を取材。10年から巨人担当。栃木県出身。