「今日のレースはフェラーリの勝利ではなく、アロンソの勝利と言うべきだ」

これは先日行われたF1第2戦マレーシアGPで優勝したフェルナンド・アロンソを称賛した多くの関係者から聞こえた声だ。

3度のワールドチャンピオン経験を持つジャッキー・スチュワートは、今年6人揃ったワールドチャンピオン経験者のなかでもアロンソを高く評価した。「ワールドチャンピオンを経験するレベルのドライバーは、みな獣というか、勝利の臭いをかぎ分ける才能に長けているアニマルなのだが、なかでもアロンソは最高の嗅覚を持つアニマルのひとりだろうね」

勝利への嗅覚、まさにその瞬間がオーストラリアGPとマレーシアGPのレース中にあった。まずオーストラリアGPではレース終盤、5位を走行していたが後ろからウィリアムズのパストール・マルドナルドの方が速く、いつオーバーテイクされておかしくない状況だったが、結果はマルドナドが自滅する形でクラッシュ。そしてマレーシアGPのレース終盤でも、ザウバーのセルジオ・ペレスにどんどん追い上げられるなか、ペレスが自らコースアウトして今季初勝利をもぎ取った。それだけを注目すると、相手が勝手にミスしたかのように見えるが、じつはこれこそ経験の浅い若手ドライバーに対しアロンソが勝利への嗅覚を発揮したポイントなのだ。

現在のF1は、レコードラインとも呼ばれる最も速く走行できる1本の道をすべてのマシンが数珠繋ぎのように走行している。そのためレースが進むにつれて、レコードラインは非常にきれいだが、それ以外の左右のラインは路面がタイヤカスやホコリで汚れ、ブレーキングミスやコースアウトの原因となる。しかし、前を行くマシンをオーバーテイクするには、そうした汚れた路面上を走行しなければいけない。つまり抜き所を慎重に見極める必要がある。

しかし、アロンソの走りは、リヤタイヤをズルズルと滑らせ、後ろから追いかけるドライバーからすると、まるで傷を負った獲物が苦しそうに走っているかのごとく映り、つい攻め急いでしまうのだ。その結果、自分のペースを崩し自滅してしまう。

今年のフェラーリは苦しいシーズンと言われているが、アロンソはその逆境を跳ね返す可能性を十分に秘めている。(モータージャーナリスト・田口浩次)