「ボクらしいでしょう、イタリアは」。なんと、プロ野球元西武のGG佐藤(本名・佐藤隆彦)選手がイタリアのプロ野球、セリエAの「フォルティチュード・ボローニャ」でプレーすることになった。

昨年、西武から戦力外通告され、どこにプレーの場を求めるのかと思っていただけに、正直驚かされた。なるほど、彼らしいと言えなくもないが、何とも思い切った決断をしたものだ。冒頭の「ボクらしい」の言葉は「やってやる」との決意でもあるだろうが、少し寂しさの響きがあった。自分の力を日本の球団が認めてくれなかったことへの悔しさもあっただろう。3月21日、佐藤選手は真由子夫人、5月で3歳になる一人娘の3人でイタリア北部の古都ボローニャへ。

▽歴史古いイタリア野球

イタリアに30年以上在住している法大野球部の先輩から誘われたのが、イタリア行きのきっかけだった。その先輩は仕事のかたわらイタリア球界にもかかわっていて、多くの監督、コーチを育てているとか。佐藤選手は「アメリカは1Aで3年間やったし、韓国野球でもなかった。新しい場所で新しい挑戦もいいかなと思った。家族には苦労かけるけど、とにかく1年、目いっぱいプレーしたい」と話した。あっと周囲を驚かせるのは、いかにもこの男らしい。その挑戦を見守っていきたい。

▽イタリアといえば、誰もがサッカーと思うが、野球は60年以上の歴史を持っているそうだ。野球の国際大会では、イタリアはオランダとともに欧州の常連国なのは知っていたが、前西武の前田勝宏氏ら何人かの日本人がイタリアのプロ野球でプレーしていたのは知らなかった。

▽来年はWBC開催

その1人、元巨人の小野剛氏は佐藤選手とは神奈川・桐蔭学園高の同級生で、イタリアから帰国後、同じ時期に西武でプレーしたことがあり、その野球については聞いていたはずだ。ただ、小野氏が投げていた8年ほど前と比べ、現在のレベルは数段上だという。五輪野球には4度出場し6位が最高。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は過去の2大会とも出ているが、ともに1次リーグ敗退だった。

佐藤選手によると、セリアAのリーグ戦は52試合ほどと少ないが、最近はいろいろな国から選手が来ていてレベルは年々上がっているそうだ。特に来年は第3回WBCが開催され、これまでの16カ国から28カ国に拡大するそうだから、佐藤選手も「選手たちは気合が入るでしょうね」と言っている。

▽ムッシュ吉田の称号を

欧州の野球と聞いて、ふと思い出されたのが元阪神監督の吉田義男氏である。阪神監督を計3度務めた吉田氏だが、2度目の監督を退任した後の1989年から7年間、フランスで野球を指導した。フランスのナショナルチーム監督として、目指したのはもちろんオリンピック出場だった。欧州ではオランダとイタリアが強く、目的は果たせなかったが、熱心な指導ぶりに、吉田氏に贈られた称号が「ムッシュ吉田」だった。

細々としたフランス野球だが、昨年には日本の独立リーグに挑戦する選手もいた。こうした野球交流に日本球界は積極的に取り組んでいくべきだろう。今夏にはロンドン五輪が開催される。今大会から“世界的な広がりを持っていない"野球とソフトボールが実施競技から外された。復活を目指すなら欧州やアジアなどでの普及が重要になるだろうし、2020年の「東京五輪」開催へ、その照準を合わした「野球外交」を展開することだ。そうした視点に立てば、佐藤選手の存在は注目されていいだろう。ただ五輪に限れば、日本の重要なパートナーである米国は五輪に変わるWBCに一層の力を入れている。そのあたりのイタリア球界の取り組みについても、彼から話を聞いてみたい。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。

ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸男」(共著)等を執筆