各競技でロンドン五輪の代表選考が進み、毎回大きな注目を集める女子マラソンも大詰めを迎えようとしている。昨年の世界選手権と国内の3大会が選考レースに指定され、残るは3月11日の名古屋ウィメンズ(旧名古屋国際)のみとなった。今回の選考が過去の五輪と決定的に異なる点が一つある。これまでになかったペースメーカーの起用が組み込まれたことだ。従来の五輪代表選考は相手を牽制しあって極度のスローペースとなることが多く、注目レースながら盛り上がりに欠けた点もあった。日本陸連は国内の選考レースすべてにペースメーカーを置くことを決め「世界で戦える2時間22分台を目指せるように」と3レースとも中間点通過タイムを1時間11分前後に設定した。主催側も高速レースによる各大会の盛り上がりを願っており、好意的に受け入れている。

これが皮肉にも不公平な状況を生んでいるとみる。昨年11月の横浜国際では気温20度を超える暑さもあり、3人のペースメーカーが19キロまでにレースをやめた。15キロまでのペースも5キロ17分を超過。ペースメーカーの1人だった森祥子(大塚製薬)は前回大会も大任をこなしており、2010年山陽女子ロード優勝と実績も十分の選手。ところが厳しい気象条件は生身の人間である森にも等しく襲いかかった。レースを制した木崎良子(ダイハツ)の記録は2時間26分32秒。暑さがペースメーカーの仕事のリズムを狂わせたこともあり、平凡な優勝タイムにつながったとは言えないだろうか。

対照的に1月の大阪国際を日本歴代9位の2時間23分23秒で制した重友梨佐(天満屋)の好走はペースメーカーが支えた。ロンドン五輪に1万メートルでの出場を目指す清水裕子(積水化学)は5キロ16分50秒前後のペースを忠実に守り、中間点通過は1時間10分58秒と完璧な先導を見せた。陸連の木内敏夫・強化統括ディレクターはレース後、興奮気味に「清水がよく走った!」と記者会見で語ったほどだ。また、一般参加の小倉久美(四国電力)は途中までレースを引っ張る「隠れ」ペースメーカーを務めた。15キロまで清水らを引っ張り、ペースメーカーを引っ張る役を担った。陸連は一般参加枠のペースメーカー役をあらかじめ各実業団へ募集をかけており、入念な対策ぶりがうかがえる。

木崎と重友の優勝タイムには3分以上の差があり、24歳の重友には代表当確マークが出たが、タイム差だけが選手の実力差ではないと訴えたい。

女子マラソンの五輪選考は過去にも大きくもめた。2000年シドニー五輪では選考レースを2時間22分台で走った弘山晴美が落選した。04年アテネ五輪では前回金メダルの高橋尚子が涙をのんだ。今回も名古屋を終えて甲乙付けがたい結果が出た場合、すべての人たちを納得させる選考はなかなか難しい。その時はレース展開に大きな影響を及ぼしたペースメーカーの存在を軽視しないで欲しい。木崎を指導するダイハツの林清司監督が横浜国際のレース後に語った「条件は各大会で異なる。お願いだから公平に選考して欲しい」という言葉が耳から離れない。

三木 智隆(みき・ともたか)1978年生まれ。奈良県北葛城郡出身。スポーツ紙での7年間の勤務を経て2009年に共同通信へ。09年、10年とゴルフを担当し、現在は陸上を中心に取材。