日本の男子柔道は、重量級で選手育成に手こずり結果を残せず苦しんでいるが、その不振をカバーしているのが軽中量級だ。この3年の間に66キロ級と73キロ級でそれぞれ2人の世界チャンピオンが誕生、ロンドン五輪でも金メダル獲得が期待されている。

その66キロ級の一人が、森下純平(筑波大、石川県出身)だ。2010年の世界選手権で初出場にして初優勝をさらったこの人の技は、ひとことで言うと“ふわっと"している。

好調なときの森下は、激しい組み手争いになっても、身のこなしが実にしなやか。力まかせに技に入ろうとしないから、投げる瞬間、あたかも2人ともふわっと浮いているように見える。とくに得意の内股ではその濃度が濃くなるというのか、エアリー感たっぷりの技になるから面白い。全日本男子の中村兼三コーチも「あいつはそういう力の加減がものすごくうまい。天才的ですよ」と絶賛する。

ところが、ここ最近の森下はちょっと元気がない。昨年はライバルの海老沼匡(明治大)に世界チャンピオンの座をさらわれ、結果を残せず不調の日々が続いた。以前なら相手の動きをうまくさばいて技に入っていたのに、昨年は簡単に追い込まれ、逆に相手の技にはまってしまう場面ばかりが目立った。

「自分のタイミングになれず、技に入れなくなっている。いままで感覚で柔道をしてきたから、その感覚がずれると何もできない…」と本人は途方に暮れている。何をどうすればその感覚が戻るのか、見つけられずにいるのだという。ただ、はっきり自覚していることもある。

「自分には海老沼さんのような気迫が足りない。もっと気持ちを前に出す柔道がしたい」。

おっとりした性格で、強化コーチ陣からはかつて草食系と揶揄されたこともある。しかし、森下自身、そこに物足りなさを感じ始めている。ロンドン五輪の国内の代表最終選考会は5月に行われる。それまでに前世界チャンピオンの意地を見せどれだけ変われるか。ふわっと技をかける持ち味そのままに、気迫みなぎる森下……いまはまだ想像できない。だが、見てみたい。(スポーツライター・佐藤温夏)