悔しいと思えることの素晴らしさ。柏レイソルの選手たちは、なにものにも代えがたい経験を得たことは間違いないだろう。

「最初はわくわくしたけど、最後は悔しさでいっぱい」(近藤直也)

「良い試合だったけど、すげぇ悔やまれます。自信を持って戦えた。ただ、ゴールチャンスを決められず、それが悔やまれます」(沢昌克)

「まだまだやれるという気持ちだった」(酒井宏樹)

試合後に発せられたコメントには、それぞれにある程度の満足感と、「あのときにこうすれば」という悔恨の思いが同居していた。

▽いい意味で覆された予想

FIFAクラブ・ワールドカップ準決勝。スターティングメンバーにブラジル代表歴を持つ選手を7人揃えるサントスFCに対し、もしかして一方的な試合になるのではないかと予感した人は少なくなかったのではないだろうか。

それは良い意味で覆された。少なくとも内容面を見れ ば、柏が互角に近い試合運びを見せたからだ。

▽目標はあくまで打倒バルサ

確かにサントスのパフォーマンスがベストかといえば、多少差し引いて考えなければいけないだろう。彼らの目標はあくまでもFCバルセロナとの決勝だ。

この大会で世界最強の名を欲しいままにしているカタルーニャの巨人を倒し、王様ペレを擁して連破を成し遂げた1962年、63年以来の世界一のタイトルを獲ることに集約されている。

真夏のブラジルから冬の季節へ、しかも時差がまったく逆の日本に来たことを考えれば、彼らにとっての初戦となる柏戦は、あくまでも決勝に進むことが目的の一戦。日本代表選手のいない柏を相手に、ブラジル代表の面々を揃える集団が「負けることはない」というのが前提にあったはずだ。

▽王国ブラジルの奥深さ

事実、サントスは内容はともかくとして、サッカーの勝敗を決する得点をいとも簡単に重ねた。

19分にペレの再来といわれる19歳のブラジルの“宝石"ネイマールの右足のキックフェイント。大谷秀和を翻弄する切り返しからの左足のファンタスティックゴールで、まず1点。

24分には2006年にベガルタ仙台でJ2得点王に輝いた、ブラジル全国選手権得点王ボルジェスの強烈な右足のキャノンシュートがさく裂。組織で対抗する柏の守備網を、個人のアイディアと技術のみで易々とこじ開ける迫力は、王国ブラジルの底知れぬ奥の深さを感じさせた。

ブラジル恐るべし。これに比べれば日本は、「個」ではまだまだよちよち歩きの赤ん坊だと思い知らされた。

▽興味つないだ柏の健闘

それでもこの試合が、見る者の興味を失わせなかったのは、間違いなく柏の健闘があったからだ。

2点という“安全圏"を手にしたことで、サントスが引き気味の布陣を敷いたこともあったが、その後の柏はボールをつなげるようになり、攻撃の形を作る。

後半に入った53分にはジョルジ・ワグネルの左CKを、酒井が競り合ったエンリケの頭上から打点の高いヘディングで1-2とする追い上げのゴール。3点目を奪われる前に、1点差としたことで勝敗に対する興味もずっと盛り上がった。

▽それでもサントスが一枚上

しかし、やはりサントスは格が一枚上手だった。本当に強いチームというのは、危険水域が近付いてきたら、すぐに安全な地域に避難する。また、それができるのだ。

63分に柏を引き離すダニーロのFKなどは、まさにそれだろう。約28メートルの距離から、柏の作った4人の壁の右端の頭上を抜くFK。この大会で数々の好セーブを連発してきたGK菅野孝憲も完全に欺かれる右足シュートだった。

Jリーグに、このレベルのキッカーがいないこともあるが、逆に弱冠20歳でこのようなスペシャリストが生まれてくる土壌。ブラジル・フッチボール(フットボール)は奥が深い。

▽それでも柏は怒涛の攻撃

再び2点差をつくったというサントスの心の隙もあったのか。その後、柏は怒涛の攻撃を見せた。サイドを巧みに崩しての形のできた攻撃。74分には沢のシュートが左ポストを直撃した。

81分には再び沢が決定機を迎えたが、ヘディングはクロスバーの上に。89分、右サイドからの酒井 のクロスを受けたジョルジ・ワグネルのシュートはすんでのところでDFに防がれた。

どのシュートもゴールマウスに吸い込まれてもおかしくない場面。結果的にそのチャンスの一つもが得点にならなかった。

▽サントスと柏の大きな差

形を作れたという満足感と、得点にできなかったという不完全燃焼の思い。非常に微妙な差だろ思われるかもしれないが、柏の選手にはここに想像以上の大きな差があることを知ってほしい。

プロのこの世界、チャンスで決めるか決めないかは、その後の生活に大きな開きが出てくる。 そしてこの日、チャンスに確実に決めたのは、よりサッカーが自分の人生のその後に影響力を持つブラジルの選手たちだったのだ。

▽最高の負け方

悔しく思えることは、とても貴重な経験だ。間違いなくその悔しさが、次に向上するための強いモチベーションになる。

逆に手も足も出ない完敗を喫したときは、勝者との差を縮めるためのヒントさえ見出せないことが多い。「俺たちとは次元が違うんだ」という諦めの気持ちのほうが強くなるからだ。その意味で柏は、サントスというビッグネームを相手に、最高の負け方を喫したのではないだろうか。

▽「結果がすべて」

「戦術面ではむしろ我々が上回るところもあった。確かにチャンスも多かったし、うちが勝ってもおかしくなかった。でも結果がすべてだ」。柏のネルシーニョ監督はこう振り返った。

17歳でサントスのDFとしてプロデビューし、2005年にはサントスの指揮も執った。自分の古巣と対戦となったが、このネルシーニョ監督こそが、試合の勝敗を分けた差を一番わかっていたのではないか。

▽いまのままではいけない

サッカーは、いくら戦術的に戦っても、最後は個人が決めるもの。この日、サントスが決めた、美しくも豪快な3得点。そのすべてが最終的に個人の技量に負っていた。

その事実を考えると、日本人選手はいまのままではいけないと 改めて思い知らされる。個人の技術、判断力、ゴールに対する貪欲さ。これらの要素を高い次元で身に付けた個人が、集団として戦術的に戦ったとき、初めて世界の一流と互角の状態で戦えるのだと。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィルサッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている