2011年、鳴り物入りで故国イタリア企業のドゥカティに移籍したバレンティーノ・ロッシは、ランキング7位で1年を終えた。2000年に最高峰へ昇格して7度の世界王座を獲得してきた彼の、過去のワーストは総合3位(2007年、2010年)。その事実と比べると、今年の成績の悪さがよくわかる。表彰台獲得は第4戦フランスGPの3位が一回きり。開幕前からフロントタイヤの接地感不足や旋回性の悪さを指摘していたが、レースを重ねてもそれらの症状は改善されず、シーズン半ば以降は「雪でも降らない限り表彰台はとても無理」と、自虐気味なコメントも発するようになった。

だが、開発陣は黙ってこの事態を眺めていたわけではない。ドゥカティ・コルセのテクニカルディレクター、フィリポ・プレツィオージはロッシの要求に応えるマシンづくりをめざし、シーズン途中に、2012年の1000CC仕様として設計したものを2011年のルールに見合うよう、排気量を800CCに変更して急遽投入するという策に出た。しかし、根本的な症状は解決せず、旧仕様マシンを駆るチームメイトのニッキー・ヘイデンと大差ない順位でゴールするレースが続いた。シーズン終盤には、ドゥカティが独自設計としてこだわるフレーム部材を一部変更する等の方法でも問題解決を図った。だが、文字どおり付け焼き刃の対策では根の深い問題が解決するわけもなく、ロッシは冒頭の成績で一年を終え、コンストラクタータイトルでも、日本企業のホンダ405、ヤマハ325に対してドゥカティは180、と大きな点差をつけられて一年を終えた。

ドゥカティは、マシン設計面において、日本メーカーとは違う独自発想に徹底的なこだわりを見せてきた。上記のカーボンファイバー製モノコックフレームや、デスモドロミック(強制弁開閉式)バルブのL型(90度)2気筒エンジンはその結晶といっていい。ところが、今季のロッシが予想以上に低迷したことで、この哲学も棚上げせざるをえない状況に陥っている。来季用マシンは、カーボンファイバー製モノコックフレームではなく、ホンダやヤマハの日本車と同じ、アルミ製ツインスパーフレームを採用している。その理由について、プレツィオージは、「ブリヂストンタイヤの性能を最も効率的に作動させるためには、日本車のありかたに近づかざるをえない」と話している。また、2003年のモトGP参戦開始以来徹底的にこだわってきたL型エンジンも、マシン全体の重量バランス配分を考慮した結果、どうやら90度よりも狭い角度の形状になりそうな気配だ。

これだけなりふり構わぬ見直しを迫られているのは、母国が生んだスーパースターのバレンティーノ・ロッシをチャンピオンにしなければならないという義務があるからだ。だが、そのロッシも来年2月で33歳。一方のライバル選手たちは、全員が20代半ば。円熟の技術と経験量で、若い強豪選手たちを凌ぎきれるかどうか。ロッシ、ドゥカティの双方にとって、2012年はまちがいなく正念場の1年になるだろう。(モータージャーナリスト・西村章)