イチローや松井秀喜らに象徴されるが、今季の日本人大リーガーたちはおしなべて不成績に終わった。野茂英雄投手の挑戦から17年で、日本人のメジャー選手は約43人。日本球界へのリターン組も多くなり、ここ2年は計4人と下降気味だった。

▽それでもやっぱり、メジャーへ行きたい

しかし、今オフの日本球界ではスター選手の米国行きが大きな話題となっている。極めつけは、日本ハムのダルビッシュ有投手である。

東北高校から入団し、2年目から2桁勝利を続け、3年目から防御率は1点台をキープし、7年間で通算93勝を挙げた。まだ25歳と若い日本球界を代表する投手がポスティング(入札)制度を使って大リーグへ挑戦するのだ。西武・中島裕之内野手は同制度で独占交渉権を得たヤンキースに入団するだろう。

楽天・岩隈久志投手やソフトバンクの和田毅投手と川崎宗則内野手、さらにヤクルト・青木宣親外野手らも太平洋を渡ろうとしている。彼らにはやっぱりメジャーが夢の舞台なんだ、と思う。

▽今後もメジャー挑戦続きそう

今年の5月ごろだったと思うが、日本人選手の成績が伸びない兆候が出て大リーグ挑戦も沈静化か、といった空気があった。ただ、その時期にも大リーグ関係者が「今後も日本人選手の米野球挑戦は増え続けるだろう」と楽観視していることを、友人から聞いていた。

理由として、日本の球団が選手の希望する条件(金銭面など)に応えることが困難になってくることを挙げていた。メジャーでは、活躍すれば日本とは桁が違う年俸を稼げるのは魅力だろうが、どうもそれだけの理由ではないようだ。

▽WBCで視線は「世界」に

1年ほど前、西武・中島の代理人を務める弁護士と会ったことがあった。「契約更改時に来年の米国行きの確約を球団から取れないだろうか」という話だった。

「それは無理。ポスティングを勝ち取るのは中島の意思次第」が結論で、その中島は今オフ、球団にポスティングでの移籍を認めさせた。

米国行きを強く意識したきっかけは今年の他選手と同様、ワールドベースボール・クラシック(WBC)出場で“世界"に目が向いたからだ。

▽抗いがたい「本場」の魅力

エキスパンションで30球団に膨れ上がり、プレーの質が落ちたといわれる大リーグだが、世界各国から集まってくる「野球の本場」で、日本の若い選手たちは自分の力を試したいのである。

ゴルフの石川遼だって、近い将来は米ツアーに本格参戦するだろうし、多くのサッカー選手はヨーロッパでプレーしている。こうした流れは止まらないだろうと思う。

▽ドラフトだけでも桁違いのスケール

米国はプロスポーツの本場といわれるだけあって、野球に限らず、やることなすことすべてでスケールが大きい。そこに「プロフェッショナル」を感じるのは、私だけではないだろう。

ほんの一例だが、米映画「マネー・ボール」の原作(マイケル・ルイス著)に書かれているドラフト会議の様子は面白い。ドラフトで取る新人選手は全体で1500人、1球団50人。全米を電話でつないだ会議での丁々発止ぶりに、各球団の必死さが表れていて、一部球団のエゴで変形させてしまい、ショーアップにしか活路を見いだせない日本のドラフトとは比べようもない。

▽常に「ファンの目」意識

NHKのアーカイブスで見た「もっと知りたい!大リーグの裏側」には、フリーエージェント(FA)制導入時のオーナー側と選手組合側の激しい争いを取り上げていた。

また1994年のシーズンをまたいだ長期ストライキで野球人気がガタ落ちすると、球界がこぞって巻き返しに出て人気を取り戻す。薬物問題や価値の上がった球団を売り飛ばすオーナーのマネーゲームなど、大リーグには光と影が交差するが、日本プロ野球の倍近い、その140年の歴史は球団側と選手たちの闘いの歴史であり、常にファンの目を意識した改革・改善を繰り返す歴史でもある。

▽コップの中の争い、もう止めるべき

闘いといえば、日本人大リーガーの足場をつくった野茂氏のことを忘れてはならない。94年オフ、当時近鉄の野茂氏は球団に複数年契約と代理人による契約交渉を要求して決裂。マスコミのバッシングの中、任意引退選手となってドジャース入りした。米国行きというより、日本球界から飛び出したかったのだろう。

村上雅則氏以来、31年ぶりに大リーガーが誕生すると、それから毎年、米球界入りが続いている。なぜ大リーグに惹かれるのか、なぜ日本ではだめなのか。プロ野球関係者は今こそコップの中の争いを止めた方がいい。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信社では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取

材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション

「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆