延長戦の末の1-0という結果だけを聞けば、接戦の試合を思い浮かべるだろう。だが、内容を見れば、両者には思いのほか大きな開きがあった。鹿島アントラーズの円熟した大人のサッカーと、若さの勢いこそ伝わってくるが、まだまだ未熟さを感じさせる浦和レッズのサッカーだ。

▽ピリピリ感漂うスタジアム

4万6599人の大観衆で埋まった10月29日の東京・国立競技場のスタンドは、久々に威圧的な迫力を感じさせる雰囲気だった。

ちょっと危険な香りを漂わせる赤い集団同士の激突。Jリーグでも屈指の浦和と鹿島の筋金入りのクラブサポーターで大半が占められたスタジアムには、両チームのリーグでの低迷も関係するのか、ある種の殺気が漂っていた。

いわゆる品の良い「日本代表ブランド限定」の観客ではなく、この類の人種でサッカー場が満員になるのは久しぶり。個人的には、このピリピリ感が大好きだ。

▽気負いが軽率なプレーに?

浦和の若さを象徴するシーンは、山田直樹の退場だろう。

後半開始直後の47分と50分に2度の警告。ともに悪質なファウルと判定された新井場、青木に仕掛けたタックルは、自陣でのピンチの場面ならまだしも、鹿島陣内の深い位置でのプレーだった。

それを考えると気負い過ぎが軽率なプレーにつながったのではと思える。

▽若手引っ張る人材に欠けた浦和

浦和には原口元気(20歳)、柏木陽介(23歳)、山田直樹(21歳)、梅崎司(24歳)、濱田水輝(21歳)とこの日、先発したメンバーに加え、途中出場した高橋峻希(21歳)、小島秀仁(19歳)など、将来の日本サッカーを背負って立つ可能性を秘めるタレントが数多くいた。

しかし、鹿島と比べると、この若手をプレー面でも精神面でもリードする人材が、残念ながらいなかった。タイトルを獲得することの難しさ、決勝戦という独特の雰囲気を知っているのは山田暢久、鈴木啓太ぐらい。

彼らにしても、強かった時代の記憶は、鹿島の選手ほどに持っていなかったのではないか。それが後半、一方的に押し込まれる展開の要因になったのではないだろうか。

▽鹿島を支える、揺るぎなき哲学

一方、クラブ創設20年目で4度目のナビスコカップ制覇を成し遂げた鹿島は、これで15個目のタイトル獲得だ。

1993年のJリーグ開幕年の参加10チームのなかで、市民クラブの清水エスパルスを除いては唯一の日本リーグ2部からの参加となった。そのクラブがここまでの栄光の歴史を残すとは、当初は誰も考えなかっただろう。

Jリーグでも特筆すべき成果を成し遂げる原動力。それはクラブの根幹に揺るぎなき哲学があるからだろう。真のプロフェッショナルなベテラン選手が、若手に妥協なくプロフェッショナリズムを伝えていく。それが、常に途切れることがなく継続されている。

▽他と一戦画す「長続き」の強豪

確かにJリーグの歴史を見れば強豪として一時代を築いたチームはあった。J開幕当初のヴェルディ川崎、ジュビロ磐田、そして浦和。しかし、どれも継続はできていない。

主力が衰えればチームは弱体化する。そのなかで鹿島と、西野朗監督がJリーグでは異例の長期の指揮を執るここのところのガンバ大阪は、他のチームとは一線を画す趣がある。

ジーコが秋田豊や相馬直樹に伝授し、秋田や相馬が小笠原満男や中田浩二、本山雅志に引き継いで伝えた精神。伝統のバトンタッチは、現在も理想的に続いている。

▽大迫が見せた「大人のプレー」

延長前半終了間際の105分に決勝点を挙げてMVPに輝いた大迫勇也は21歳。そしてこの大舞台で青木剛の退場処分後、何食わぬ顔で右サイドバックをこなした柴崎岳に至っては、今春、青森山田高校を卒業したばかりのまだ19歳だ。

本来はボランチの選手だが、彼が見せたパフォーマンスは、まさに「大人のプレー」。少なくとも浦和の若手に比べれば、よりサッカーを理解している感じがした。

「いつも通りのプレーをすればいい。(右サイドバックは)経験があったので戸惑いはなかった」。10代にしては、ちょっと枯れた感がある柴崎の発言だ

が、延長後半の114分には最終ラインから攻め上がってのクロスバーを直撃するシュートも放った。

▽サッカー界の「芦田愛菜」

それだけ周囲が見えて、チャンスをチャンスと確信できる選出眼が備わっているのだろう。小学1年生の大女優、芦田愛菜ちゃんの受け答えがしっかりしているのは大人の世界で育っているからなのだろうが、柴崎もまたサッカーにおいてはすでに大人。

それは本人の資質もさることながら、周囲の環境が作り上げたものだろう。その意味で、数年で社長や監督がころころ替わり、その度にこれまで積み上げてきたチームの基盤が一瞬にして崩れ去るクラブは、鹿島というクラブのあり方を、もう一度じっくりと見直したほうがいいのではないだろうか。

▽もっと怒るべき、の判定

ところで、ナビスコカップ決勝では、もうひとつ気になったことがある。後半に入った80分に鹿島DF青木が東城穣主審から2度目の警告を受け、退場処分になった場面だ。

「あの対応は僕のなかでのベストの対応。間違っているとは思えない。あの判定はどんなに自問自答してもわからない…」。

原口のドリブルに対する青木の対応は、僕自身、青木の言葉通りだと思う。もしあのプレーにイエローカードが出るのなら、サッカーというスポーツは成り立たないだろう。

山田直樹の退場処分に対する、体の良いつじつま合わせ? とまで感じてしまう。鹿島が勝ったから大きな問題にはならなかったが、鹿島サポーターはもっと怒るべきだろう。

不思議なことに試合終了後に東城主審にブーイングを送っていたのは、人数を合わせてもらった浦和サポーターだったということにもどこか違和感が残った。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている。