世界ボクシング評議会(WBC)女子ライトフライ級チャンピオンの富樫直美(ワタナベ)が11月30日、後楽園ホールで韓国人を相手に7度目の防衛戦に臨む。第一人者の富樫にとって、今回の試合には特別な意味がある。30日に合わせ、「走れ!助産師ボクサー」(NTT出版)が発売される。著者はもちろん本人。ボクサーと助産師。多忙の合間を縫ってこれまでの思いを書きつづってきた。働く女性やスポーツファンにとって彼女の人生観は必ずプラスになるに違いない。

全224ページが7章に分かれており、それぞれに味わいがある。プロローグ・二つの戦場の後、第1章「並走・二足のわらじで駆ける日々」、第2章「助走・助産師に巡り会うまで」、第3章「奔走・世界チャンピオン前夜」、第4章「疾走・ターニングポイント」、第5章「力走・東京に帰れない」、第6章「迷走・震災を乗り越えて」、第7章「未来・産みたい私の夢と現実」に続き、エピローグ・今を生きる―の構成になっている。そのほかコラムも充実。実にバラエティに富んでいる。

その中から特に印象強いものを幾つか紹介したい。まず、今年の女子スポーツのハイライトとも言うべき「なでしこジャパン」から受けた刺激だ。女子ボクシングはまだ世間ではそう知られていないが、ワールドカップ優勝という歴史的快挙で、女子サッカーは一気に社会的な話題にまで発展した。「彼女たちは日本の女性の強さをあらためて証明してくれた。女性にはまだまだ隠された能力がたくさんある。女性が思う存分、力を発揮できるようにサポートしていきたい」。ボクシングの世界にもいつか「女の時代」が来てほしい、と切に訴えている。

3月11日の東日本大震災には心を痛めた。実は翌12日に6度目の防衛戦が予定されており、富樫は計量後の食事を楽しんでいた。減量から開放され、至福の時間だった。その直後、これまでにない大きな揺れを感じた。帰宅後、自分の目を疑ったという。部屋の食器という食器が割れ、床に散乱している。急いでテレビをつけた瞬間、頭の中から試合のことが消え、戦う意欲を失った。「こういう状況でボクシングを続けていいのだろうか」。試合は延期となり、自問自答の繰り返しだった。しかし、同じ世界王者の小関桃がつらさを克服して練習していることを知り、戦う大切さに目覚めたという。

全編にふたつの顔を持つ筆者の気持ちがストレートに表現されている。ボクサーとして、助産師として常に前向きに進む人生がそこにある。(津江章二)