来季のコーチ人事をめぐって起きた巨人のお家騒動が、泥沼化の様相を呈している。日本シリーズ開幕前日の11日、清武英利球団代表兼ゼネラルマネジャー(GM)が自らが開いた記者会見で、すでに決まっていた人事を覆したとして渡辺恒雄球団会長に対して「巨人やプロ野球を私物化する行為は許せない」などと内部告発した。

▽前代未聞の内紛

“ナベツネ"で知られる渡辺氏といえば、球団での肩書こそ代表権のない会長だが、実質的な球団オーナーであり、85歳にして親会社の読売新聞社を代表する最高実力者だ。

プロ野球のオーナーが名指しで痛烈な批判を浴びせられるのは、70年を超す歴史の中でも前代未聞のことだと思うし、厳しい管理で知られる読売グループの内紛は珍しい。

1957年、日本シリーズに2年連続して敗れた巨人で、今回と同じようにコーチ人事をめぐり水原茂監督と球団社長が対立する騒ぎに発展。60年には大毎(現ロッテ)の西本幸雄監督がさい配に口を出した永田雅一オーナーとけんかして、就任わずか1年で退団した例などが思い起こされるが、球団代表とオーナーが公衆の面前で激しくやり合うことなどまずなかった。

▽告発には賛否両論

清武代表に対しては「職を賭して、よく言った」、「組織の秩序を乱す」という賛否両論がある。一方で渡辺会長に対しても「ナベツネ支配の終わりの始まり」、「老害だ」という様々な声が巻き起こった。

「たかが野球じゃないか」と冷めた見方もあるが、多くのファンを持ち、球界の盟主を自認する人気球団のトラブルである。さらに親会社の読売新聞社は発行部数1千万部といわれ、世論をリードする立場の巨大メディアとして、その球団所有の是非を問う向きもあった。

▽ビジネス化阻む球界の体質

読売と巨人が表裏一体なのはよく言われることである。部数の拡張・維持の上でもその人気が欠かせないからだろう。しかし、今回の横浜の球団売買でも分かるとおり、球団を親会社の広告塔に位置づける体質こそが、プロ野球界の「スポーツビジネス」化を阻んでいるように思う。

12球団が一体となって利益を生み出す仕組みづくりを真剣に考えないと、不況になると投げ出す球団が必ず出てくることになり、野球文化が衰退する。巨人ブランドに陰りが出てきたいま、ビジネス化の必要性は高いと思う。

▽注目集めるGM制度

今回の騒動で注目を集めたのがGM制である。チーム編成の権限をGMに与えようとするもので、巨人もGM制を取り入れたばかりだった。

自チームはもとより他チームの戦力分析ができ、それに合った編成を行うのが仕事で、かつての西武、現在の日本ハムでGM制が機能している。日本でも公開中のブラッド・ピット主演の米映画「マネーボール」は大リーグのGMが主人公である。

▽素人にも、監督にもGMは無理

野球評論家の一部に「日本にはGMはなじまない」との意見もあるが、いずれにしても誰かがチームをつくらなければならない。

日本の球団社長や代表は本社から来た野球の素人が大半で、編成本部長や球団本部長がチームづくりの責任者なのだが、勢い、監督に全権を託す場合が多い。

それはやめた方がいい。なぜか。日々の勝ち負けに追われる監督に「5年後を見据えたチームづくり」を望むのは無理があるからだ。

▽長期展望には優秀なGM

特に巨人のように、常勝を課せられている監督ではなおさらのことである。逆に言えば、かつての栄光のV9を再現したいならなおのこと、長期展望を持てる優秀なGMを置くべきだと思う。

今回の騒動で助監督候補として江川卓氏の名前が出てきた。渡辺会長は原監督の口から出たと言っているが、助監督といえば次期監督候補でもある。

それを江川氏より後輩の原監督が言い出したとしたら、すこし解せない気がする。推測でしかないが、この騒動は「渡辺人事」が発端で、GMを外されそうになった清武代表が刺し違え覚悟で抵抗したのではないだろうか―。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信社では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆。