4日前のベトナム戦も含め、ワールドカップ3次予選に入ってからのゴール欠乏症にフラストレーションをため込んでいた人たちにとっては、久しぶりに胸のすくような内容と結果だったろう。

▽簡単ではない8ゴール

確かにタジキスタンは弱かった。本来は2次予選で敗退したはずなのに、シリアの不正によって繰り上げで3次予選に進出したチーム。アジア予選で日本がシードされるようになってからは、ほとんど対戦する機会がなくなったレベルのチームだったが、それでもゴール前にベタ引きになった相手に公式戦で8ゴールを挙げるのは、そう簡単なことではない。

▽ちょっと不思議なタジキスタン

いくら失点を重ねても、まったく前に出てこようとはしない。「守備に徹する考えだった」。ラフィコフ監督の率いるタジキスタンは、ちょっと不思議なチームだった。

勝ち点を挙げようという気持ちがまったく感じられず、この試合を守備のトレーニングマッチとでも思っていたのか。それにしてはディフェンスラインの押し上げもほとんどなく、日本のボールホルダーに対するプレッシャーも少なかった。

普通ならば技術でかなわない場合は、体をつぶしにくるのだが、それもない。ある意味、フェア。だからこそ日本は好き勝手にできたのだが…。

▽日本代表の新しい武器

そのなかで日本の新しい武器として確信を持てたのが、この試合で代表初先発となったハーフナー・マイクの高さだろう。いくらゴール前に人がいようが、空中はフリーだ。

そこに194センチの長身を躍らせてヘディングで奪った2ゴールは、超大型センターバックの少ないアジアでは、絶対的なアドバンテージだ。

マイクは「コマさんからいいボールが来たから合わせるだけでした」と答えていたが、新しいチームで2ゴールを演出してくれた駒野友一という存在を得たことも大きかった。

▽ゴールパターン増やす「信頼の数」

どんなに優れた選手同士でも相性というのはあるわけで、タジキスタン戦でマイクは駒野に、そして駒野はマイクに信頼を置いたはずだ。

今回は負傷で招集されなかった内田篤人や復帰した長友佑都。マイクはクロスを供給してくれるサイドの選手と「信頼の数」を増やしていくことで、より多くのゴールパターンを身につけるはずだ。

▽中村憲剛が見せた「信頼の数」

「信頼の数」を多く持っている、という意味で、タジキスタン戦で出色の働きを示したのが、チームでは遠藤保仁に次ぐベテランの中村憲剛だった。

本田圭佑の負傷離脱で、トップ下の最有力候補となっていたのだが、9月シリーズの北朝鮮戦、ウズベキスタン戦はけがのため、途中まで帯同したもののチームを離れた。

そのために北朝鮮戦は柏木陽介、ウズベキスタン戦は長谷部誠がトップ下に入ったが、このシステムがチームとしては機能したとはいえなかった。

▽本田とは違う「トップ下」

サッカーは相手のゴールに近いところでボールが確実に収まり、そこから効果的なパスが展開されることで得点の可能性が広がる。

トップ下に強いフィジカルを生かしてどっかりと構える本田とはタイプが異なるが、この試合で憲剛は機動力を生かした違うスタイルのトップ下の選手像を示してくれた。

労を惜しむことなく動き回り、常に守備ブロックのディフェンダーとディフェンダーの間に入り込む。後方からの縦パスが入り、相手が寄せて来るとダイレクトで味方にボールを戻す。

味方はリズムよくボールを触り続け、逆に相手は走り回らされる。その隙をついてサイドのスペースに入り込み、必殺のラストパスを送る―。

▽中村憲剛の特異な才能

憲剛の特異な才能は、ピンポイントのスペースが平面でも空間でも見つけられることだ。これはまさしく才能としかいいようがない。

いくらボール扱いがうまい選手でも、瞬時に最良のポイントを探せる選手は、そう多くはない。

試合を観ていて「なんであのスペースに出さない」と思う場面がある。だが、スタジアムの観客席やテレビで上から俯瞰して見ているから、そう思うのであって、ほぼ平面の視野でしか風景をとらえられない選手にとっては、ちょっと事情が違う。ゴール前に相手選手が密集するなかでスペースを見つけだすことは、そう簡単なことではないのだ。

▽自在に操られる、質の高いボール

そのなかで前半19分と後半29分に岡崎慎司のゴールを生みだした2本のラストパス。そして調子を落としていた香川真司の久々のゴールを演出した前半41分の測ったようなコントロールパス。

縦、クロス、斜めと全方向に自在に操られる質の高いボールは、大勝の最大の要因であり、見事としかいいようがなかった。それはタジキスタンの守備を差し引いてもである。

▽欲しいところにパスが来る

「自分の欲しいところにパスが来る」。岡崎のこの言葉は、憲剛の存在に対する、チーム全員の気持ちの代弁だろう。その意味で中村憲剛は日本代表のなかに、数多くの「信頼」を持っている。中村憲剛の復帰で、本田の不在もアジアレベルではいまのところ心配はないようだ。

岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている。