タイトルはここまで、人を成長させるのか―。すっかり落ち着き払った走りを見ながら、思わずうなってしまった。

自動車のF1シリーズ、第15戦日本グランプリ(GP)で3位に入り、年間総合王者2連覇を決めたセバスチャン・フェテル(ドイツ、レッドブル・ルノー)のことだ。

初ポールポジション(PP)に初勝利、初年間王者など数々の最年少記録を塗り替え、すでにF1の歴史に名を残すドライバーに対して、なんと失礼なと憤る方もいるでしょうが、1年ぶりに鈴鹿で目の当たりにした立ち振る舞いはそれほどまでに変わっていたのだ。

昨季までのフェテルの印象は、「速いが、もろい」。初の年間王者に輝いた昨季は全19戦で5勝、10度のPPを記録するも、3度のリタイアを含め、4位以下は9度を数えた。予選で上位につけるも、決勝では自分のミスで順位を落としたり、リタイアすることもしばしば。レース後に悔しがる姿を覚えている方は少なくないだろう。

それが、今シーズンはリタイアはなし。15戦で、優勝9回、2位4回、3位1回。表彰台を逃したのは第10戦の母国ドイツGPの4位だけで、12度のPP獲得と、内容も文句なしだ。

ここ2年のポールトゥフィニッシュの回数を比べると、成長ぶりがより明らかになる。昨季の3度に対し、今季は8度。勝てるときはしっかり勝ち、そうでないときは無理せず、確実にポイントを取りに行く「大人」のレースをしているのだ。

日本GPでもマクラーレン・メルセデスのジェンソン・バトン(英国)に先行を許したが、動じることなく走りきった。中でも感心したのは、2位になったフェラーリのフェルナンド・アロンソ(スペイン)に迫った終盤。周回遅れのマシンに追い上げを邪魔される形になったフェテルは怒りをあらわにしたが、その後の運転に変化は見られなかった。昨年ならば、無理な走りをして、自滅していたに違いない。

抜群の安定感を手中にできたのは、最終戦までもつれた年間王者争いを苦しみ抜いて制した経験があったからだろう。あと必要なのは、母国の大先輩、ミヒャエル・シューマッハーがかつて見せた戦術眼くらいだろうが、まだ24歳。身につける時間は十分にある。

ともあれ、「フェテル時代」が本格的に幕を開けたことだけは間違いない。(榎並秀嗣)